短編
□薬指に口付けを
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戦に出る、と告げたら彼女は動かなくなった。
「……どうして」
彼女の唇は震えていた。
どうして、も何もないだろうに。
天人どもが江戸を侵そうとしているのに、何もせず刀を持て余しているわけにもいくまい。
「わたしを、置いていくの」
連れて行って何になるのだ。刀の使い方を知らないおまえは死ぬだけだ。
死なせまい。決して、死なせまい。
俺はおまえしか愛せないのだから、今までも、これからも。
おまえが死んでも俺は死なないが、そうすると俺は一生誰も愛せないまま淋しい人生を送ることになるだろう。(そんなのは、御免だ)
「帰ってくる、必ずだ」
それだけ言った。
おまえは震えている。
月のない晩だった。
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