短編

□薬指に口付けを
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ただ衝動のままに、彼女の左手の薬指にだけ、唇を触れさせる。
俺のいない間に、俺ではない男の手で。この指にはめられるのであろう、指輪のことを思いながら、何度も。



(嗚呼、ここに消せない痕を残してやりたい)



俺のいない間に、俺ではない男が指輪をはめることの出来ないように。

口付けの痕なんて、数日も経てば消えてしまうだろうに、俺は馬鹿だ。


***



戦は俺たちが一番望まない形で終結した。


攘夷活動は、続けるつもりだ、勿論。このままで良い筈もないだろう。
銀時は江戸に行くという。あいつは昔から読めない奴だ。
……俺も、江戸に向かおうかと思う。

その前に、しなくてはならないことが一つ。



「結婚して、しあわせに暮らしているのではなかったか」



久しぶりに再会した彼女は少し大人びていた。髪はきれいに伸びて、体格や顔つきも、着実に大人のものに近づきつつある。
それでもまだ、わずかに覗く幼さは、戦に出る前の彼女を彷彿とさせた。


「……男が。男が、いなかったんだもん。優しくてかっこよく頼りがいのある男が!」


怒りか恥ずかしさか、顔を赤くさせて彼女はそう言った。
その様子が、成長した外見とは裏腹に子供っぽくて、俺は思わず笑ってしまう。

まぁ、あながち嘘ではないのだろう。彼女は相変わらずかわいらしく、そこに美しさも加わって、男なら幾らでも寄ってきただろうに。
それでもなお結婚しなかったのは、本当に望むような男がいなかったのか、それとも。


待っていたか。





「馬鹿だな。優しくてかっこよくて頼りがいのある男なら、ここにいるであろう」

「……な、何いってんの! わたし、小太郎とは結婚してあげないって決めたんだから」

「ふ、戯れ言を」



あいにく指輪はないけれど。

悔しそうに握りこまれた彼女の手を引いて、あの日のように口元に寄せた。




(残りの条件は、ずっとずっと大切にしてくれる、だったか)(余裕だな)




2010.06.26 桂さんおめでとう!

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