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□胸中
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「ちぇんちぇ、ネクタイ曲がってゆ」

「ぁ、あぁ。すまない」

「んもぅ、抜けてゆんらかや…」


ウエストのきゅっと締まった、フワフワのドレス。
いつもより内に巻いた髪、いつもより艶のある唇。
ピンクのリボンは、銀のティアラに。

お得意の奥さんヅラした発言も、そりゃ破壊力を持つだろう。





金持ちバカ親の息子の腹をかっ裂いたのは3ヶ月前。いつも通り家一軒買える程の金をもらい、ただ帰っただけだった。
電話がきたのは1週間前。おかしい。
術後の定期検診は先日終えたばかりだが。
もしかしたら容態が急に…?などと考え焦って受話器を受け取ったものの、出てきた声は明るかった。
内容はよくあるもので、息子の全快祝いをかねてパーティーを開く、というものだった。
勿論断るはずだった。
この類の誘いは私の法外な手術代を軽々出す患者にはよくあることで、断ることだってできたはずだ。
しかし、電話先の執事であろうか礼儀正しい男の声が思いの外大きく、受話器を私に渡してからしばらく私の膝の上に乗っていた彼女の耳に届いてしまい、
今に至る。



"ピノコ着てく服がないわ!"
と彼女が急に喚きだしたのが2日前。
私もすっかり気付いてなかったため、よし明日買いに行くかなどと考えていた矢先、夕飯のおつかいに行った彼女は一つ紙袋を余分に持って帰ってきた。
話によると、パーティーの話を聞き写楽の姉和登が作ったのだという。
自信作だから、後で着用した写真を送ってほしいだのなんだの。
……自信作?
あの女子がドレスなぞ作れるわけなかろう。
大方あの少女趣味なハゲガキが作ったのだろう何から何まで。
無理やり取り上げると案の定暴れる彼女。
それも私の翌日のスケジュール発表のみで解決された。
さて、その服をどうしたかって?
まだ袋の中さ。
パーティーが終わったらゴミ箱……いや焼却炉行きだ。




車を走らせること3時間。
ようやく目的地に到着した。
さすが、というべきか。
立体駐車場なるものまで持っているのかこの家は。
警備員に指定された場所に停め、彼女を起こす。


「ピノコ、着いたぞ」

「ん、もう…?こえからパーティー?」

「そうだ。…ピノコ。ここでの私達の関係は親子だ。
まちがっても先生なんて言うなよ?」

「うん…パパ」

「よし、いい子だ。行くぞ」
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