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□主導権
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「………あ!!!」

「あーもウ、また負けた…」

「んー、もう一回!」




1週間前、手塚の勧めでインターネット環境を変えた。
営業マンと話すのは苦手だが、ネットが繋がらないのは仕事上困るので、仕方なく訪問の営業マンを呼んで話を聞いた。どうやら月額料金が安くなるらしい。その時のパンフレットを机に置いとくと、どうやらピノコが見たらしい。
私はとんとうといが、どうやら
「ちゅまーとふぉん」
を強請ってる事は分かった。なにやら同会社のスマートフォンを買うと更に安くなるらしい。
すでに以前私が買った携帯電話を彼女は持っているので、もちろん反論したが、結果は上の通りだ。本当に甘いと思う。


「おい、ピノコ」

「ん〜、ちょっとまってぇ」


それからはずっとこの調子だ。
『アプリ』とかいうやつにハマっているらしい。私はよく分からないが、携帯電話を買った時のように写楽と連絡を取り合ったりしてるのではないから、まぁそこは良しとする。


「おい、ピノコ…」

「ちょっと待ってってば!今いいとこよなの!」



まぁ1週間で飽きる事は分かっているのだが、それでも私にとって唯一コミュニケーションを取る相手が機械に取られてしまうのである。機械に嫉妬するなんて本当に情けないが、しかし仕事で知らない内にストレスが溜まるのも事実。



「ピノコ…」

「ご飯なやもう作って冷蔵庫はいってゆ!」

「違う、飯はいいから」

「ん〜」

「飯はいいから、こっち来てくれ…」

「え?」



やっと彼女がスマートフォンから顔を上げた。


「先生、どうちたの?」



とて、と私が座っているソファの隣に座る。この時点でまだ手ぶらではない。


「そっちじゃなくて、ここ」

「……いいの?」



膝にぽふ、と重みが乗る。
彼女が向こうを向いたまままた『アプリ』を再開したので、腰に手を当てて少し引き寄せた。私も対抗する。

「先生?」

「うん?」

「怒ってゆ?」

「いや、別に続けて構わないよ」

「ん〜…」



もう一押しか。更に腰を引き寄せてみる。


「…よし!おしまい!」

「なんだ、終わりはあっさりだな」



とか裏腹の事言ってみる。


「ん、もういいの」



と言いながらこちらを向く彼女。私の足を跨ぐ。


「あんなに夢中になってたのにか?」

「だって、先生が構ってくれるならそっちの方がうれしいもン、ふふ」



言いながら身体を密着させる彼女。
なんだそれは。
声をかけても振り向きもしなかったくせに。だがそんな事は言わない。


「だっていつも先生が書斎でお仕事してる時、ピノコがなに言っても上の空なんだもン。誰も話す人いないし、ゲームするしかないんだもん…」


ん?
それは誰かに似ているな、さて誰だったかな。


「そうか…」

「でもね、別にお仕事中はピノコと話なんかしなくていいの、でもね、ピノコは先生にこうして呼ばれたらなにがあっても来るんらよ、だからお仕事終わったらね、ピノコにも構ってね…」


顔を私の胸に埋める。
なんかもう、不意打ちである。


「ピノコ」

「なに、せん………ン、」




それは非常に衝動的であったが、忘れないで欲しいのは私には常にその感情があって、その栓を外したのは彼女の行動が原因であるという事。


「……せんせ?」

「…………。」



しかし原因がなんであれ、自分の行動がちょっと信じられない。顔も合わせず、無言で膝からピノコを降ろす。


「先生?」

「風呂」


やっと喉から出した一言である。
この後気が動転してスーツのままビショビショに濡らしたのは言うまでもない。そして寝室でいつも通り寝る彼女の寝顔を見てまた服のままシャワーに行くのも。








えんど。
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