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□答え
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「やぁ、久しぶりだなぁ!君から声をかけて来るなんて珍しいじゃないか!」
「あぁ、急にすまないな」
「で、話ってなんだ?また手術室を貸す話かい?それなら来月になってしまうが…」
「いや、ちょっとな…」
昨日の惨事から一転、私は今手塚の病院にいる。
結局昨夜は寝られず、今朝もピノコが起きる前に家を出てきた。
まさかこんなに自分を見失うとは思っていなかった。そして私にはこんな時相談する他人が少ない。そこで私とピノコの関係を知っている手塚を思い出し、今朝病院に電話して今に至る。たまたま夜勤明けで繋がって助かった。
「すまないな、夜勤明けなのに」
「や、大きな手術もなかったし、大丈夫さ。ところでピノコちゃんは元気かい?最近会ってないねぇ」
「それが…」
私はもう、洗いざらい話した。事の顛末を。
まだ整理できていない頭のまま、普段では考えられないほど一つ一つの言葉に躊躇しながら。時には照れ混じりで。
自分で寒気がするくらい自分が気持ち悪かった。それを見ている手塚はどれだけ驚愕しただろう。しかしそんな事考える余裕も無いほどに、気が動転し、もう正常な精神状態ではなかったのだ。
「………。」
「そうか、ピノコちゃんにねぇ。」
「もう、どうにでも言ってくれ…」
「……んー、でも別にそんなに対した事じゃないんじゃないか?」
「え?」
「仕事のストレスで何かに癒されたい時ってあるだろ、僕だって娘の寝顔見るだけで元気になるよ。特にたった1人の家族なら尚更だよ。
まぁキスはちょっと倫理的に問題かもしれないけど、別に日本だって娘が小さければ父親とキスくらいするだろ。」
「だが…」
「今までずっと1人でなんでもこなして来たからうまく受け入れられないんだろう。血は繋がってないけど、ピノコちゃんは君の娘だろう?別に周りの親子と同じような事をしても問題はないんじゃないかい?」
「………。」
「それに女の子なんてすぐ大きくなってお嫁に行っちゃうんだから、嫌われないうちに仲良くしとかないと。そのうちパパ嫌いとか臭いとか言われるんだぞ…
…まぁピノコちゃんは少し特殊だけど、まさかずっと家に置いとく訳ではないだろう?」
「違う!」
「…ブラックジャック?」
「私は…ピノコを娘だと思った事はない…」
「なんだって?じゃあ…まだ患者と医師ということか…?」
「まさか…ただ、今手塚にピノコを“娘”だと言い切られて、なんとも言えない違和感が出たのも事実だ」
「え、まさかお前…」
「あぁ、つまりそういうことだろうな。さっきまで自分でもよくわかってなかったが、手塚の話を聞いて実感した。」
「ブラックジャック…」
「結局自分で認めたくなかっただけなんだろうな。でももう行動に出てしまったんだ。認めるしかないな。」
「…もしかして想像は付いてたのか?」
「まぁ、ある程度はな。ただ、手塚に言われてふんぎりがついたよ。ありがとう」
「……まぁお前らしいと言ったらそれまでだな」
「おかげで少し冷静になれたよ」
「僕はちっとも冷静じゃないがね(笑)」
手塚は最後まで私の気持ちを疑っているようだった。その挙動不審さは、まるでさっきの私である。
さすがにこんな話に付き合ってもらったので、飯を奢る約束をして別れた。
手塚に話したらかなりすっきりした。だがしかし私には難問が残っているのだ。これから家に帰らなければならない。自分の気持ちがはっきり分かってから彼女に会うのは初めてだ。もはや自分の行動が読めない。
とりあえず今日は、服を脱いで風呂に入ろうか。
えんど。