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□食卓
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「ピノコ、飯…」



今日は珍しく仕事がなかった。
大音量で鳴り響く生理現象を無視してカルテを書き進めていたが、そろそろ集中できなくなってきた。

そういえばもう飯の時間だと思い、書斎を出ながら声をかけたが応答がない。


「……ピノコ?」

居間を覗くとソファーに体をあずけ寝ている彼女の姿があった。
床にはおやつであろうバニラアイスのゴミがころがっていた。



彼女にとって、奥さんを主張できる家事は大変でも楽しみなはずなのだが、こうしてありのままの姿を見ると自然と頬が綻ぶ。

彼女の隣に腰掛けるとソファーは沈み、彼女は私の肩に頭を預ける形になる。
肩にかかった髪が気になり、指でといてみるとすぐにサラ…と落ちてしまった。

毛の滑らかな感触がすぐに終わるのが淋しくて、繰り返しといた。


「……んぅ…」

彼女は軽く身動いだ。
一瞬手を止めたが起きる様子がなかったので、再び髪に手をのばす。

ふと彼女の髪が頬に張りついているのに気付き、取ってやろうと頬に手をかける。
なんだか人形の世話をしてるようだな…とこの行為に夢中になっている自分に苦笑する。


「ふにゃ…」

再び彼女は身動いだ。
そろそろ起きるかな、と思っていた時


「!」


彼女の唇から液体が漏れ、鎖骨をつたった。
別に涎がたれたなら拭ってやればいい。だが、その色が白かったなら…非常にまずいわけで。


「(……くそう、バニラアイスめ…)」

拭ってやらなければ、とは思うものの、体どころか目も動かない。
どんどん下におりてゆく白い液体に釘付けになる。

液体が彼女の胸にまで入った時、冷たさに彼女は覚醒した。


「…ん……ちぇんちぇ…?」

目をこすりながら私を見る彼女。

だがすまない。
今は君の目を見れない。

「ちぇんちぇ、今何時?」

「ろ、6時だ」

とか答えつつ目は動かなくて。


「ん…?アッ、チョ……よだえたえてる…」

すると彼女は鎖骨からたれた唾液を指ですくい


「…ん、あまぁい…」

「っ!」


舐めた。


白い液体がついた指先をちろちろと赤い舌が舐めるたび、急激な体温の上昇を感じる。


「(な、なんなんだこれは…!!)」

「ちぇんちぇ」

「は、はい」

「今日晩ご飯どうすゆ?」

「な、なんでもいいよ」

「んー、牛乳がたまってゆかや……シチューでいい?」

「シ、」


シチュー?!



「ぁ、らめらった?」

「いや…頼む。」


「…ピノコ」

「なぁに?」

「ゆっくりでいいから」

「?うん」


トコトコ…と台所に向かう娘の背中を見ながら、大きくため息をつく。

やばい……最近本当にやばい。
しかも今日シチュー…ピノコがこぼさずに食べる訳がない。

どうせまた首もとにたらすのだろう。

しかもシチューは温か………温かい?!


ポタッ…

「やん……ぁ、あちゅい…」



…………まずいぞ。なんてことだ。ついにスラックスのファスナー付近が膨れてきたぞ。

このまま食卓を囲めば絶対こいつは爆発する。それだけは免れなくては。

すまない、ピノコ。許してくれ。
これはお前のためなんだ。と呟きつつ、私はトイレに向かった。




えんど。

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