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□胸中
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「いやいや、よく来てくださいました!
先生が来ないとなったら中止するつもりでしたよ」
「その後、息子さんはどうです?変わりありませんか?」
「えぇ、お陰様で。本当に先生には感謝しきれませんな。今日は楽しんでいって下さい。
おや、そちらの女の子は…?」
「私の娘です。
ピノコ、挨拶なさい」
「は、はじめまちて!間ピノコといいましゅ」
「いやいや、可愛らしい娘さんですなぁ!うちの次男坊と同じくらいかな?そこら辺にいるから遊んできたらどうだい?」
「ピノコ、私はこの人と少しお話ししてくるから、1人で回ってなさい。
できるね?」
「はい、パパ」
とてて…と人込みに紛れる後ろ姿を見送り、主人に目を戻す。
「本当に可愛い娘さんですなぁ。うちなんか男ばっかりでむさ苦しいですよ」
「いやぁ、あれで結構手が掛かってるんですよ――」
―――私がこういう場を好まないのはこういう所にある。
金持ちを楽しませるような世間話など持ち合わせていない。
いつだったか、小学校の同窓会に行ったのを思い出す。
それなりに楽しかったが、ああいう場でさえ私の容姿だのなんだので寄ってくる奴らはいたのだ。
こんな場なら尚更だ。
だから来たくなかった。
などと考えていると、しゃべくっていた主人の話が終わったらしい。
適当に相槌を打っていたら"ごゆっくり"と言われ、解放された。
さぁ、彼女を探しにいかなくては。
先程彼女が去っていった方向に歩いていくと、なにやら人だかりができている。
「まぁ可愛いお嬢さん。
お名前は?」
「……ピノコ」
「まるでおとぎ話から飛び出してきたみたいね。
パパとはぐれちゃったの?」
「ううん。…ぁ!パパ!」
どうやらもうお手上げらしい彼女は、婦人達に混じってやり取りを聞いていた私を目ざとく見つけた。
公の場で抱きつかれる事などこんな状況以外ないもんだから、口元がゆるんでしまうのはもはや言い訳のしようがない。
「ちぇんちぇ」
「ん?」
「お外、出たい」
思いの外口調がはっきりしていて驚いた。
てっきりぐずってるかと思った。
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