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□紫陽花色の恋
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「あー…最悪じゃ…」



ぽつりと呟いた一言は誰に聞こえるでもなく、雨の音にかき消された。


部活が終わった帰り道にいきなり降りだした雨は次第に大雨へと変わり、傘を持っていない俺をこれでもかというほどびしょ濡れにした。




朝家を出るときは晴れてたから傘を持って出なかったんに。


これだから梅雨は嫌いじゃ。




雨粒が激しくなってきたので、近くの店の前に行き、少し雨宿りをすることにした。


激しい雨は勢いを弱めることなく、寧ろ増していく一方。


弟に傘を持ってこさせようかと、携帯を取り出そうとしたその時、「あの…」と、小さな声。




なんじゃ?女?




振り向くと、背の小さな女が、傘を持って立っていた。




立海の制服じゃから、学校は同じようじゃが…。


見たことないのぅ。違う学年か?




白い肌に、絡みなど縁のなさそうなふわふわのライトブラウンの髪。


人形のような容姿に、思わず見とれてしまう。




「あの、傘ないんでしたら…これ、使いますか?」




黙っている俺に、そいつが自分の持っていた傘を差し出しながら控えめに言った。




「ええんか?それ、お前さんのじゃろ。自分のはあるんか?」


「はい。私は折りたたみ傘があるので。どうぞ」




ふわっと微笑み、俺に傘を差し出すその子。


片手には確かに折りたたみ傘が見える。


このままここにいても雨は止みそうにないので、俺は傘を受け取った。




「ありがとな。お前さん、名前は?」


「……みょうじなまえです」




俺が名前を聞くと、一瞬不思議な顔をした後、答えるみょうじ。




……みょうじって……確かこの間ブンちゃんが言ってた、I組に来た転校生がそんな名前じゃったような…。




「…何組?」


「3−Iです」




やっぱりか。




「年下かと思ったぜよ。俺はB組の仁王じゃ。明日にでも返しに行ってもよか?」




俺の言葉に、微笑み頷くみょうじ。


「それじゃあ」と言い、俺が行く方向とは違う方向に歩いていった。


みょうじの姿が見えなくなり、俺は貸してもらった傘を開く。


俺の目の前にある紫陽花のような、綺麗な無地の青色の傘だ。


みょうじの持っていた折りたたみ傘は、同じく無地の淡いピンク色の傘。


何だかわからないが、少し微笑みながら、俺は家への道を歩き始めた。






俺の中に芽生えた小さな気持ちが、青からピンクへと染まるのは―――






きっともうすぐ。






(明日、何て言って返そうかのぅ…)(またあの笑顔が見たい)
紫陽花色の恋




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