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□銀の世界で熱に溺れる
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「んじゃ行くか」
仁王について保健室を出ると、二人きりであるということを不意に思い出した。
確実に、私の中で緊張がはしる。
私が、具合が悪いのを我慢して学校に来た理由。
それは、目の前を歩くこの男に、誕生日のプレゼントを渡すこと。
毎年、誕生日とバレンタインに、全校中とも言える女子に囲まれるテニス部に1人でプレゼントを渡すのは至難の業だ。
だからこそ今のこの状況はチャンスと言ってもおかしくはない。
ただ…歩幅を合わせて隣を歩いてくれている仁王を見ると、どうしても緊張してしまい渡すことが出来ない。
「なぁ…」
不意に、仁王が口を開いた。
「ふぇっ!?な、何?」
驚きすぎて変な声を出してしまった私を笑う仁王。
「驚きすぎじゃ。あんさ、なして具合悪かったんに帰らんかったんじゃ?」
「えと…」
ここで渡さなかったら一生後悔すると思い、決心して口を開く。
「仁王…その、今日誕生日でしょ?だから…プレゼント、渡したくて…」
うつむいたままそう言い、仁王の方を見ると、仁王はとても驚いたような顔をしていた。
「…仁王?」
迷惑だったかと思い、未だ固まっている仁王に声をかけた。
「あー…その、ちょっと予想外じゃったけ、固まってたわ、すまん」
「ご、ごめん!!迷惑だったよね」
「誰も迷惑なんか言っとらん。ほれ」
手を差し伸べる仁王に、訳がわからず不思議に思っていると仁王は「プレゼント、くれるんじゃろ?」と言って笑った。
「あ、うん…はい」
「ありがとさん。開けていいかの?」
その場で開け始める仁王を、緊張したまま見つめる。
プレゼントの中には、カップケーキが1つ。
味大丈夫かどうかわからないけど…と言おうとする前に、仁王はもう一口食べていた。
「あっ…」
「うん、美味いぜよ。ありがとな」
「う、ううん。味、大丈夫だった?」
「美味いって言うとるじゃろ」
笑いながら私の頭に手をのせる仁王。
「まだ熱あるのぅ。早く帰るか」
「…仁王、好き」
「………は?」
「……っ!?」