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□心恋
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立海大附属中学校に転校してきて1週間がたつ。
3-Iの皆は優しくて、すぐに仲良くなれた。
3年生の6月という、この微妙な時期の転校は不安だったけれど、ようやく学校にも慣れてきたと思う。
今は梅雨真っ只中で、おまけにテスト期間。
図書館などで勉強する人以外は、傘を指して足早に帰路を急いでいた。
先程から降りだした雨は次第に強まり、道端に咲く紫陽花を濡らした。
雨の雫に濡れる紫陽花は綺麗で、思わず見とれる。
並ぶ紫陽花を楽しみながら、私も家へと足を進めた。
(あれ…あの人…)
ある角を曲がった時、白…いや、銀髪が目に入った。
立海大の制服を着ているため、立海の生徒だろう。
傘を持っていないのだろう、彼は全身びしょ濡れで雨宿りをしている。
雨に濡れた彼の銀髪はきらきらと光って、先程の紫陽花と同じく美しさを感じた。
そんなことを考えながらも、鞄の中の折り畳み傘の存在を思い出す。
「あの…」
声をかけると、彼は驚いたような顔でこちらを見た。
近くで見ると、より綺麗だと思った。
男の子に綺麗という形容詞は失礼かもしれないけど、そう思うのだから仕方がない。
白い肌、さらさらの銀髪には雨の雫がこぼれ落ち、琥珀色の瞳に吸い込まれそうになる。
「あの、傘無いんでしたらこれ使いますか?」
持っている傘を差し出しながらそう言うと、彼は少し困ったような表情になった。
「ええんか?それ、お前さんのじゃろ。自分のはあるんか?」
「私は折り畳み傘があるので。どうぞ」
傘を差し出すと、ありがとな、といい受けとる彼。