short

□果てしなく一方通行
4ページ/5ページ



手をひかれたままつれてこられたのは中庭。

先輩は、一番大きな木の下で立ち止まった。

この木は、雅治先輩がよくサボりに使っていた木だ。

こんなところにすら先輩の面影を思ってしまう自分に嫌気がさす。

…もう、諦めなければいけないのに。




「そんな顔すんなよ…」




言葉の意味がわからず、目の前に立っているブン太先輩を見つめる。




「泣きたいなら泣けばいいだろぃ…」




あぁ、全部わかっているんだこの人は。

私が泣くのを我慢していることも、諦めることなんて出来ないであろうことも。

真剣な顔をする先輩に、胸の奥から色々な感情が込み上げてきた。




「な、んで…っ!ほって、おいてくれ…ないんです、か…!!」




半分八つ当たりのような言葉をはく私を、ブン太先輩は優しく抱きしめてくれた。

私はその優しさに甘えて、落ち着くまで先輩の腕の中にいた。

その間、ブン太先輩はずっと、黙って私のことを抱きしめてくれていた。





(ほっとけるわけねぇだろぃ)
(…好きなんだからよ)
(なんて、今は言えねぇ…)

果てしなく一方通行
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ