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□果てしなく一方通行
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手をひかれたままつれてこられたのは中庭。
先輩は、一番大きな木の下で立ち止まった。
この木は、雅治先輩がよくサボりに使っていた木だ。
こんなところにすら先輩の面影を思ってしまう自分に嫌気がさす。
…もう、諦めなければいけないのに。
「そんな顔すんなよ…」
言葉の意味がわからず、目の前に立っているブン太先輩を見つめる。
「泣きたいなら泣けばいいだろぃ…」
あぁ、全部わかっているんだこの人は。
私が泣くのを我慢していることも、諦めることなんて出来ないであろうことも。
真剣な顔をする先輩に、胸の奥から色々な感情が込み上げてきた。
「な、んで…っ!ほって、おいてくれ…ないんです、か…!!」
半分八つ当たりのような言葉をはく私を、ブン太先輩は優しく抱きしめてくれた。
私はその優しさに甘えて、落ち着くまで先輩の腕の中にいた。
その間、ブン太先輩はずっと、黙って私のことを抱きしめてくれていた。
(ほっとけるわけねぇだろぃ)
(…好きなんだからよ)
(なんて、今は言えねぇ…)
果てしなく一方通行