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□詐欺にかかって
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『位置についてー…よーい!ドン!』




ガンガンと太陽が照りつける中、体育教師のやけにはりきった声が響く。


なんでよりによって、こんな暑い日に100m走なんかやらなきゃいけないの?


周りを見ると、他の人も同じ様な心境らしく、やる気のない顔が見える。


やる気があるのは、体育大好きな男子とか陸上部の人とか。


まぁ私も陸上部だし、一応エースではあるんだけど………


暑いの苦手なんだよね。それも人一倍。


外の部活で暑いの苦手とかどうなんだよって思うけど、苦手なもんは苦手。


身体中の体力全部奪われそうなんだもん。


でも、今回ばかりは暑さが苦手とか言ってられない。


なんでかって………体育の前の授業で、隣の席の仁王と賭けをしたから。




「なぁ、賭けせん?」


「賭け?」


「次の体育、100m走じゃろ。タイム競って、負けたほうが勝ったほうの命令きくってのはどうじゃ?」


「…陸上部のエースにいいの?言っておくけど、私速いよ?」


「受けるんじゃな?」


「いいよ。絶対負けない」





自慢するわけじゃないけど、私は陸上部の中で1番速い。
男子よりも。


私は、仁王のことが好きだ。
だからこそ…負けたくない。


走るのは男女別で女子から。


しばらくして、私の番がきた。


いつも通り、クラウチングスタートの格好をする。




『位置について、よーい!ドン!』




スタートの声と同時に地面を蹴る。
周りの女子達をあっという間に引き離して、風を切ってゴールした。




『12秒13!さすがだな、みょうじ』




惜しくも自己新にはいかなかったが、満足できる速さ。


男子の計測が始まり、友達と一緒に見ていた。


仁王は前から3番目。


仁王の番になると、クラスの女子達が黄色い声で応援し始める。


私だって応援したいけど、賭けしてるから無理だし…。


少しガッカリしながらも仁王を見ると、目があい、笑いかけられた。


勝負をしているというのに余裕だ。


悔しいけど、カッコよくてドキドキしてしまう。




『位置について、よーい…ドン!!』




先生の声にあわせて、一斉にスタートする。


5人の中には同じテニス部の丸井もいるのに、仁王は他の4人を引き離してゴールした。




「す…ごい…」




思わず呟いてしまうほど、仁王はキレイだった。


風と一体化したような走りに、見とれてしまうほど。


ぼーっとしすぎて、仁王が近付いてきたのに気付いてなかった。




「おい、みょうじ?」


「うわ、びっくりしたー」


「気付いとらんかったんか?ぼーっとしすぎじゃ」


「うるさいよ!てか、速いじゃん!いつもあんな速くないくせに!!」




そうだよ。仁王はいつもはこんなに速くない。


遅くもないけど、私よりははるかに遅かったのに…。




「いつもは少しばかり手抜いてたけぇ」




何それ………はぁ……
仁王の詐欺に騙されたってことか……




「んで?お前さんタイムは?」


「12秒13…どうせ仁王のが速いでしょ」


「ま、そうじゃが…ギリギリだったのぉ」


「何秒?」


 
 
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