短編

□シンデレラガール
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少女がお城につくと、舞踏会は既に始まっていた。
が、王子はまだ来ていないらしく、娘たちは身嗜みを整えながら王子を待っていた。
そんな中に少女は現れた。
辺りがざわついた。
あんな美少女を誰も見たことがなかったからだ。
少女の継母も義姉たちも、誰もが少女だと気づかなかった。

しかしそんな視線にも気付かぬほど、少女の頭の中には先程の魔法使いの少年でいっぱいだった。

何故自分はあの時のことを忘れていたのだろう。
あんなに大切な思い出だったのに。
今なら分かる、あれは幼いながらの恋心だったのだと。

もう一度彼に会いたい。
次に会う時は今度こそ、思いを伝えたい。
今から帰ろう。そして彼を探そう。

そんなことを考えていると、ふいに辺りが騒がしくなった。
自分の思考から戻った少女もそちらを向く。

目を見開いた。

王子がいた。
この舞踏会のメインである王子だった。

しかし少女が驚いたのは彼な登場ではない。
彼の容姿だった。

金色の髪に、整った顔立ち。
あの少年に似ていた。
そして何より似ていたのが、あのダークブルーの瞳だ。
だが、直感する。あれは彼ではないと。
纏っている雰囲気が違いすぎる。
少年は闇を背負い、王子はその逆で光だった。
しかしあまりに似過ぎていて、少女は彼から視線が外せなかった。

そして、目が合った。

王子は一直線に少女に向かって歩いてきた。
周りにいた娘たちは王子のために道を空けた。

「私と踊って頂けませんか」

王子が少女の手を取り、その甲に口づけた。
辺りの声が大きくなる。

王子に誘われて断るなど、出来るわけがない。
少女は帰りたいという感情を抑えて、はいと微笑んだ。

王子はステップを踏みはじめた。
王子のエスコートは素晴らしかった。
流石王子、とでも言うべきか、とても慣れている。

王子は少女を見つめ続けた。
少女も王子を見つめた――正確には、王子の瞳を。
少年と同じ、ダークブルーの瞳を。

「……貴女はこの舞踏会に来た。つまりは私の妻になる気があると思っていた」

ぽつりと王子は少女に聞こえるように呟いた。
少女ははっとして今度は王子の瞳を見つめた。

「…だが、貴女は私の瞳越しに誰かを見ている」

顔が赤くなったのを少女は感じた。
否定しなくてはいけない、だが、少女の反応は図星以外の何でもなかった。

「私は貴女を気に入った。妻に迎えたい」

聞きたくない言葉だった。
王子の求婚を断れるものなど、いないのだから。

「だが急かしはしない。まずは、貴女の名前を教えて欲しい。そこからゆっくりと、私を好きになってくれるまで待つから」

なんて……、なんていい人なのだろうか。
この人を選んだら、きっと大事にしてくれる、幸せにしてくれる。
なのに頭に浮かぶのは、王子と同じダークブルーの瞳をした、王子ではない少年。
幾度と会った訳じゃない。
たいした言葉を交わした訳じゃない。
なのに、心を支配する。

「……ごめんなさい」

少女は呟いた。
王子が口を開きかけた瞬間、

リーンゴーン……

鐘が鳴り響いた。
十二時の鐘だ。

少女は慌てた。
魔法が解けてしまう。

少女は王子からするりと抜け出した。

王子が驚いている間に走り出す。

「待って!」

少し遅れて王子が少女を追った。

走りずらいドレスで懸命に階段を下る少女。
途中で足がもつれ靴が片足脱げたが気にすることなく走った。

「待ってくれ!」

王子がだんだんと迫ってくる。

「いくら逃げようと私は貴女を諦めない!急かさない、そう言ったが撤回させてもらう!探し抜いてでも貴女を私の妻にする!」

王子の手が少女に届きそうになったところで、誰かが王子の手を掴んだ。

王子はその手の主を見上げ、そして驚いた。

「誰だ」

王子はその主に問う。
その主は漆黒のローブを身に纏い、腕の中には自分が追い求めた少女。
そして何より驚かせたのは、その容姿。
ローブと同じ漆黒の髪以外は王子と瓜二つだった。
とくに似ているのは、ダークブルーの瞳。
王子が恋した少女が自分越しに見ていた相手がそこにいた。

「あ……」

少女が小さく声を上げる。
そして安心したように息を吐いた。
王子の心がズキリと痛んだ。

そしてその一瞬の隙を少年が見過ごすはずもなく、杖を一降りする。

「なっ……!?」

王子が目を瞬せる。

少年と少女は消えていた。


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