短編

□シンデレラガール
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舞踏会当日。
少女は義姉たちの仕度を手伝わされていた。
きらびやかなドレスと飾りをつける義姉たち。
少女は悲しくなった。

継母は少女に帰るまでに家事を全て終わらせるようにと言い付け、義姉たちは勝ち誇ったように少女を見下し出ていった。

少女はすぐに家事をする気にもなれず、屋根裏にある自分の部屋へ向かった。
そして、部屋に置かれている一つの鉢に視線を向けた。
その鉢に植わっていたのはセントポーリア。
少女はもの心ついた頃には既にこの花が好きだった。
家の庭にも植わっているのだが、鉢に植え替え自分の部屋にも持ってきたのだ。

少女はセントポーリアを見つめながら床に座り込みベッドにもたれた。

「私も……、行きたかった……」

「なら、行けばいい」

何処からか聞こえてきた声に、少女は驚いて辺りを見回した。
すると、いつのまにか壁際に漆黒のマントを羽織った少年がいた。
髪も同じく漆黒で、ダークブルーの瞳をもった美少年だ。
少女は何処かでその瞳を見たことがあった気がしたが、何処だか思い出せない。

「そうだな……、魔法使い、とでも言っておこうか。貴女の願いを叶えるために来た」

この魔法使いの少年(自称)はどこか怪しげだが、少女は自分の願いを素直に口にした。

「舞踏会に行きたいの……」

「成る程。なら――」

少年は少女に二つのものを要求した。
一つは鼠。少女は家の台所にこっそりと巣作りし、少女が時々餌をあげていた鼠のうちの二匹を連れてきた。
二つ目はカボチャ。少女は家の庭で育てていたカボチャの中から一番大きなものを頑張って運び出した。

そして、その二つを庭先に並べたところで、少年は懐から一本の杖を取り出し、振った。

「わぁ…!!」

するとどうしたことだろう、鼠は馬に、カボチャは馬車に変わったのである。

少女が驚いていると、少年は今度は少女に向かって杖を振った。

すると今度は少女の姿が変わった。

髪は纏められ、顔にはうっすらと化粧。ボロボロだった服は継母が買ってくれたものと比べものにならぬほど素敵な純白のドレスに。そして靴は硝子の靴へと姿を変えた。

「この魔法は十二時には解けてしまう。それまでに帰ってくること」

少女は嬉しそうに笑いながら、はいと答えた。そして、ありがとうとも。

少年は少女を馬車に乗せ、ドアを閉めようとした所で手を止めた。

少女が不思議に思っていると、少年は花壇へと向かうと数本の花を手に取って戻ってきた。
その手にはセントポーリアの花。

勝手に取って悪かったな、と言いながら少年は少女の髪にそのセントポーリアの花を挿した。

「この花は貴女によく似合うな」

少女は目を見開いた。
その台詞を、この指先を、自分は知っている。

そう、確か幼い頃に――

少女の中で忘れていた記憶が蘇った。

「貴方は……」

もしかして昔私を助けてくれた人なの?そう口を開いた所で、ドアは閉められた。
馬車が走り出す。
少女は慌てて振り返るが、そこにはもう、少年の姿はなかった。


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