短編
□幸せな家庭
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あの事件の後、ニーナとレイルは遠く離れた国の小さな村にたどり着いた。
美男美女の若夫婦がやっときた、と直ぐさま村で話題を呼んだりもしていたが、それもすぐに収まり、村の人々は心根の優しい二人をすぐに受け入れてくれた。
二人はレイルが魔法使いであることを最初に村人たちに話していた。それを言った上でこの村に住居を構えたいとも。
変に隠したりするほうがもしもの時が怖いからだ。
一人でも畏怖するものがいれば、二人はすぐに村を出て行くつもりでいた。
しかしそんなこと杞憂だった。
村人たちは驚きさえしたが、誰一人恐怖を見せなかったのだ。それどころか、言いたくないことをわざわざ言わせてごめんなさいね、などと逆に謝られた程だった。
二人はこの村を、この村の村人たちを、あっという間に好きになった。
「やっぱり、嬉しいね」
ニーナは紅茶を入れ、そのうちのカップ一つをレイルに渡しながら、嬉しそうに言った。
二人は空き家を買い取り、そこに住むことになった。
以前の使用者が置いていってくれたお陰で家具はほぼそろっている。
「あぁ、そうだな」
レイルもカップを受け取りながら笑った。
レイルは紅茶に一口口をつけると、それをテーブルに置いた。
「この村で、一緒に幸せになりましょう、レイル」
そう微笑むニーナに、レイルの視線はくぎづけになった。
十二年ぶりに出会い、たった二日間で一生を共にすることを決めた。
たった二日で自分を変えた少女。
愛しさが胸に込み上げる。
「レイル……きゃっ!?」
レイルはニーナの膝裏に手を回し、ニーナを抱き上げた。
「…レ、レイル!?」
レイルはそのまま歩きだし、寝室の戸を開くとそのまま寝具へとニーナを横たえる。
「あ……」
この状態がなんなのかが分からぬほどニーナも子供でない。
直ぐさま顔を真っ赤に染めた。
レイルはニーナに跨がると、体重を少しだけニーナにかける。
ギシリとベッドのスプリングが音をたてた。
「レ……、レイル……」
ニーナがレイルの服をギュッと掴むと、レイルは安心させるようにニーナに口づけた。
最初は触れるだけのもの、しかし次第に深く深くレイルはニーナを求めた。
「…んぁ……ぁ……」
苦しくなったニーナがレイルの胸を叩くと、唇が離れた。
ごくり
レイルの喉が鳴るのと、ニーナが唾液を飲み込む音が重なった。
レイルの眼下には、頬を染め、息を乱し、苦しさからか快楽からか――否、その両方からか瞳を濡らした愛しい女性の姿があった。
「ニーナ……」
いくら平静を装うとしても、レイルの声は低く掠れ、艶やかさを含むものにしかならなかった。
「レ……ル…んっ…」
未だ整わぬニーナの呼吸に、レイルは更に自分の吐息を重ねた。
するりとニーナの上着に手をかけると、目に見えてニーナの肩が震えた。
レイルは安心させるように軽く口づけると、なぞるように唇をニーナの首筋に移動させた。
そのまま片手をニーナの指に絡ませ、もう片方でニーナの服を乱していく。
「好きだ……」
吐息混じりに耳元で囁くと、ニーナの空いた手がレイルの服を強く掴んだ。
「…私だって……、好き……」
消えてしまいそうな小さな声。
しかし、レイルにはきちんと聞こえていた。
「まったく…、貴女は本当に男を分かってないな……」
レイルはニーナの肌に直接指を這わせる。
ニーナの身体がぴくりと跳ね、甘い声が漏れた。
ニーナは恥ずかしくて思わず口を手で覆うが、レイルが直ぐにそれを外してしまう。
「こんな時にそんなに可愛いこと言われると堪らない。いじめたくなる。……俺だけのために啼いてくれないか?」
「ひゃっ……!?」
首筋にチクリとした痛み。
レイルはニーナの首筋から顔を上げるとそこについた紅い跡を嬉しそうに眺め指先で撫でた。
「綺麗についたな。……この先優しくできないかもしれないから覚悟して」
真っ直ぐに見つめ合う目と目。
二人の瞳にはお互いを求める故に熱がはらんでいて。
ニーナの腕がそっとレイルの背に回された。
「…ん……」
ニーナがまどろみながら少しだけ体を動かそうとすると、何かに阻まれて動くことができなかった。
不思議に思い目を少しだけ開けると、目の前には肌色。
視線を少し上に向けると、愛しい人の綺麗な寝顔。
「っ!?」
働いていなかった思考が瞬間的に動きだした。
そうだ、自分は昨日レイルに――
昨夜のことを思い出してしまい、ニーナの顔は火が噴きそうな程に真っ赤になった。
と、
「…クッ……」
頭上から声が聞こえ、おずおずと視線を上げると、そこには喉で笑うレイルの姿。
ニーナはすぐに視線を外すが、そうはさせぬとレイルがニーナの顎に手をかけ仰向かせ視線を合わせる。
「おはよう」
吐息のかかる距離で囁かれ、ニーナは背筋が粟立つのを感じた。
幾度と感じた熱い吐息。
名前を呼ぶ甘い声音。
熱をはらんだダークブルーの瞳。
自分に触れる細く長い指。
強く抱きしめてくれる逞しい腕。
抱き留めてくれる広い胸。
昨夜起こった何もかもが蘇り、ニーナは恥ずかしくなった。
「……お、…おは…んぅっ……」
しかしながら挨拶は返さなくてはとニーナが口を開くと、それを待っていたかのように口づけられる。
それも、朝にはとても似つかわしくない口づけだ。
レイルの思うがままに咥内を弄ばれ、リップ音をたてて離れた。
「……自分でしたことにせよ、やっぱまずかったな……」
自嘲しながらレイルが呟く。
息を乱しながら、何?と言外に問い掛けるニーナに、レイルはそれ、とニーナの上着を指差した。
「俺の上着なんだよ」
言われて初めて、ニーナは自分の服装を見た。
確かにレイルの服だった。
丈が長いのでニーナの太股ぐらいまであるが、ニーナはそれ以外何も身に纏ってなかった。
今更ながら恥ずかしくなる。
レイルは一度咳ばらいをして、気持ちを切り替える。
「……さて、腹減ってないか?朝食作ってくるよ」
レイルはニーナの髪を撫でると、布団から起き上がった。
「…あ、私が作るから…!!」
慌ててニーナが起き上がる。
「……あっ!」
すると、ニーナは身体の痛みに気付き、ぺたりとへたりこんでしまった。
「…え……?」
この手のこととは接点のなかったニーナである。
戸惑いを顔に浮かべている。
レイルはクスリと意地悪に笑うと、ニーナの耳元に唇を寄せた。
「だからいいって言っただろ?多少は手加減したが、初めてだと足腰立たないぞ」
「え……!?」
ニーナはまたも赤くなる。
赤くなりすぎて、瞳まで潤んでいるので、俺の理性を崩す気か、とレイルは心の中で呟く。
「て……手加減、したの……?」
あれで!?と言外に訴えるニーナが可愛くて。
レイルの心に悪戯心が芽生え、再び耳元に唇を寄せる。
「あぁ。次はもっといい声で啼かせてやるから、覚悟しとけ。…あぁ、でも、昨夜もいい声だったがな」
「なっ……!?」
朝に聞くには似つかわしくない声音を意図的にだしてレイルは囁く。
もはや言葉を失うニーナに、レイルは触れるだけのキスをすると、キッチンへと消えた。
真っ赤な顔な初な奥様と、大変機嫌のよろしい意地悪な旦那様。
しかしながら二人ともとても幸せそうで。
ほら、幸せな家庭はもうここに――。
→あとがき