短編

□どうしようきみがほしい
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俺が初めて琴音と出会ったのは、俺が中学一年のときのこと。
じゃんけんで負けた図書委員の最初の委員会の時だった。

「ねぇ、篠原くん。そこ座ろー」

俺が先に委員に決まったことで勃発した女子の委員争奪戦を征した女子が俺を誘った。
俺の顔が整ってるのは正直自分でも分かっている。だが、そんな俺の見た目に寄ってくる女に興味はなく、俺は一席だけ空いていた一番端の席に座った。

隣は美人というよりは可愛い女の子だった。
学年カラーのネクタイからして彼女は一つ上のようで、その隣に座る男子――話からして同じクラスのようだ――に熱心に話し掛けられて困り顔をしていた。
あぁ、彼女も俺と同じなんだ、と思った。

「すみません、先輩。これ、先輩のですか?」

自分のポケットに入っていたヘアピンを床から拾ったふりをして彼女に差し出す。

彼女はホッとしたように俺を振り向いた。
彼女に話し掛けていた男子はあからさま嫌そうな顔をしたが、俺の顔を見たとたんに視線を逸らした。
こういう時に自分の顔は得だと思う。

「…あ、ううん。それは私のじゃないよ?」

「そうですか、お話中にすみません」

俺はヘアピンを自分の机の端に置いた。

「気にしないで。わざわざありがとう」

彼女は笑った。
トクリ――胸が高鳴った。

「…あ、君もしかして篠原悠紀くん…?」

彼女の口から俺の名前がでたことに多少なりと驚きを感じた。

「うちの学年でも有名だよ。綺麗な顔してるって。私は見たことなかったんだけど、多分君でしょ?」

案外ハッキリものを言うようだ。

「……えぇ、まぁ…」

「……あ、もしかしてこう言われるの嫌だった!?ごめんなさい…!!」

慌てふためく彼女に思わず笑いが込み上げる。

「大丈夫ですよ。驚いただけですから」

よかった、と彼女は息を吐いた。
俺にこんなふうに接してくれた人は初めてだ。

彼女……、欲しいな……。

そんなことを思う。

「ねぇ、先輩の名前は?」

「私?桜井琴音。よろしく」

桜井琴音――。
俺はその名をしっかりと心に刻み付けた。







あれから数日後。
今日の放課後の図書当番は彼女のクラスで、彼女と共に図書委員になったあの男子は部活だろうから委員には来ないだろうと考え――うちの学校は委員より部活優先という変わった学校だ――、俺は図書室に向かっていた。

図書室の戸に手をかけたとき、中から微かに声が聞こえた。
あの男、来てたのか。
まぁ、いいか、と戸を開けると、予想外の光景が広がっていた。

彼女があの男に壁際に追い詰められていた。
あきらかに同意でこうなったとは思えない顔をして。

ぷちり、と俺の中で何かが切れた。

つかつかと歩み寄り、男の手を掴む。

「何、やってんの?」

自分でもこんな低い声をだしたのは初めてだと思った。

男はびくりとし、俺の手を振り払おうとするが、そうはさせない。

「好きだからなんて言い訳は言わせねぇぞ?やっていいことといけないことくらい認識つくだろ?」

掴む腕に更に力を込めると、彼は苦痛の声を上げた。
と、彼女が俺の手に手を添えた。

「……大丈夫よ…」

震えながら何を言うと思ったが、男から手を離す。
彼は一目散に逃げて行った。

「……ありがと…」

彼女は安心したように笑った。

「……先輩はもう少し危機感を持ったほうがいいですよ…」

「だね…。でももう学んだから大丈夫」

そう意気込む彼女に内心ため息をつく。
全然学んでない。
俺が今どんな気持ちで彼女を見ているかなんて、気付いていないのだから。

「……はぁ…、まぁ、もう人も来ないでしょうし帰りましょう。家まで送ります」

「…え…!?いいよ、一人で帰れるし…」

そう言う彼女の瞳は不安に揺れていて、その言葉が強がりであるのが伺える。

「……先輩、嘘つけないなら最初からつかないでください。……帰りますよ」

俺は近場に置いてあった彼女の鞄を自分の鞄と共に肩に担ぎ、部屋のカギを取る。

「……意外と強引なんだ」

彼女はため息をつく。
俺は彼女に振り返り、いじわるく笑った。

「結構早く気付きましたね」

彼女は一瞬ぽかんとしたが、すぐにそれはため息に変わった。

「……性格悪いのね…」

そう言いながらも俺の隣に並ぶ彼女が愛しくて。

…あぁ、困った。

どうしようきみがほしい。




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