短編

□そろそろ気付いて
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俺には幼なじみの女の子がいる。
名前は中谷明。一つ下の中学三年生だ。
幼いころから俺はずっと彼女を好きだった。
いつからかなんて覚えてないけど、物心ついた時には明は俺の特別だった。

無邪気に共に過ごした幼少期。
だけど今はその時よりも少し大人で。
好きな女の子と密室で二人きりなど、高校生男子には拷問にも等しい。

耐えろ、俺の理性……!

机に向かう明の横顔を眺めながら、俺は自分に言い聞かせていた。

二週間に一度の休日に、俺は明に勉強を教えることになっていた。
一応俺はそこそこ名の通った高校に通っており、自分で言うのもあれだが頭はまあまあいいほう。
明もうちの学校に行きたいのだというから俺に教えてくれと頼んできたのだ。

明は覚えたら間違うことはあまりないが、覚えるまでに結構時間がかかる。
しかし一度こつを掴むとどんどんできていくから末恐ろしいというか。……まぁ、教える側としては嬉しいことだけど。
でもそのうち俺より頭良くなるんじゃないかって実は心配してる。
勉強は数少ない俺のかっこつけられるとこだし。

「りっくん、終わったよ」

俺が自分の思考に入っていると、幼いころからの呼び名で明は俺を呼んだ。
俺の名前は陸斗なのだが、明だけは俺をりっくんと呼ぶ。
それがなんか特別って感じがして俺は好きだったりする。

座っていた明のベッドから立ち上がり、解かれたばかりの問題の解答を確認した。

「……よし、全部合ってる。頑張ったな、明!」

解答に赤ペンで丸をいれていく。
嬉しそうに笑う明に、あぁ、やばい、胸がときめく。

「少し休憩にしようか?疲れたでしょ?」

丁度勉強を始めて二時間程。
休憩するにはいい時間だろう。

「うん。今日ね、お母さんがケーキ買っといてくれたの。持ってくるね」

「あぁ、ありがとう」

椅子から立ち上がり、明は部屋をでていく。
ぱたぱたとした足音が聞こえなくなってから、俺はベッドに倒れ込んだ。

「辛い……」

明を好きすぎることが。
ただ、告白して駄目だった時を考えるとどうしても怖くて先に進めない。

「我ながら、へたれ……」

呟きは虚しく消える。

ベッドからは微かに明の香りがし、なんつーか自分が変態になっちまった気分になる。

「勝手かもしれないけど、もう本当にさ――」






冷蔵庫からケーキの箱を取り出し、中から自分の好きなティラミスと、りっくんの好きなモンブランを取り出してお盆の上に準備しておいたお皿に乗せた。
ティーポットにお湯を入れ、ティーカップに注ぐ。
自分のものには角砂糖二つとミルクを入れ、りっくんのものには角砂糖一つとレモン汁を数滴入れた。
何度もやっていることなので慣れた作業だ。
準備万端のお盆を手に取り、部屋へ戻る。

「りっくん、お待たせ…」

返事がない。
不思議に思って近付くと、私のベッドでりっくんはすやすやと眠りについていた。

「もう…」

呆れたように言いながらも、本当は少し嬉しかった。
りっくんの寝顔を見るなんて何年ぶりだろう。
小さい頃は一緒のベッドでお昼寝をすることはよくあることだったけど、年齢を重ねるにつれ、当たり前のようにそれはなくなった。
それがすごく寂しかった。
そしてそこで、初めて私はりっくんに特別な感情を抱いていたことに気づいたのだ。

「りっくん……」

机にお盆を置き、眠っている彼の隣に腰掛ける。
そしてそのまま横になり、目の前には大好きな人の顔。
少し動けば、唇が触れてしまいそうな――。

「な…何やってるんだろう、私……」

自分の大胆な行動に恥ずかしくなる。
急いで起き上がろうとするが、急に腕を捕まれ引き戻された。

「えっ……!?」

気付くとそこはりっくんの腕の中。
昔とはまったく違う男の人の身体をした彼が私を抱きしめている。

「り…りっくん……!!」

服を揺さぶってみるが反応はなく規則正しい呼吸音だけが返ってくる。
どうやら寝ぼけているようだ。

「もう……」

だけど、嬉しいの。
寝ぼけていたとしても私を抱きしめてくれることが。
もう好きすぎてどうしたらいいのか分からないよ。

「りっくんはもしかしたら困るかもしれないけど…。……でもお願い――」





そろそろ気付いて

目覚めた時、二人そろって真っ赤な顔して謝り続けた。





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