短編

□好きって言ったら?
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日向と付き合うことが決まった日の夜。
家に帰った僕を待っていたのは、額に青筋を浮かべた父だった。

「龍也…、お前どういうつもりだ!!」

玄関の戸を開くと共に頭ごなしに怒鳴られ、ため息がでた。
一応今日貴方の息子は全国一位を得て帰ってきたんですよ。もっと他に言うことなうんですか?

「……なんのこと?」

「とぼけるな!!試合後に皆川の娘と手を繋いで出て行っただろ!!」

今にも胸倉を掴んできそうな父の話を耳に通しながら、さっさと家の中に上がる。

「待て!話はまだ終わってない!」

父が通り過ぎようとする僕の肩を掴んだ。

「あんな娘などと…」

「僕の彼女を『あんな』呼ばわりしないでくれる?」

肩を捕まれていた腕を振り払い、僕はさっさと自室へと入って行った。



部屋に入るなり荷物を下ろし、制服のまま畳まれた布団に寄り掛かりぼんやりと部屋を眺める。
典型的な和風な屋敷である我が家は、必要最低限のみは現代に合わせて改装してはいるが、殆どが何時代だよと思わせるような部屋で。
それがずっと窮屈だったのだが、今日はなんだかそんな気もしない。
これももしかしたら日向の影響なのか…。
僕はポケットから携帯を取り出し、電話帳から先程交換したばかりの日向の番号を表示する。
そして通話ボタンを押した。

「…もしもし?」

スリーコールを迎えたところで日向の声が聞こえた。

「もしもし、日向。帰ってから親は大丈夫だった?」

日向はため息を吐いた。
あ、これはうちと変わらなかったんだな。

「帰った瞬間に怒鳴られたわよ……」

「ははっ。僕もだ」

二人でひとしきり笑う。

その笑いも止んだ時、僕は打って変わって真剣な声ど問い掛けた。

「後悔はしてない?」

「するわけないでしょ」

蹂躙することもなく返された返事に嬉しさが込み上げる。

「よかった。流石に付き合って数時間で好きな子に別れを告げられたら凹む」

「へ…?」

突然日向は驚いたように声をあげた。
僕今変なこと言ったかな…?

「何に驚いてるの?」

「だ…だって…。り、龍也は…私のこと……好き…なの……?」

「は?」

今度は僕が声をあげる。
……あぁ、そうか。好きだって、日向に惹かれたって、僕は一言も言っていなかったんだ。

「好きだよ。…僕さ、今日初めて日向の笑顔見たんだ。それにやられた。話してみたらもっと惹かれたよ」

正直に告げると、電話の向こうであからさまに慌てた様子が伺えた。

「日向は僕のことどう思ってるの?もしかして親への反抗と学校の試合外対決を避けるために僕と付き合うって決めたの?」

「そ、そうじゃないけど…」

「僕言ったよ。『僕と付き合って今まで話さなかった数年を埋めてみない?』って」

わざと切なそうな声で言う。
我ながら性格悪いと思うが、僕が女の子にたいしてこんなふうになったのは日向が初めてだ。

「だ、だって、ノリのような始まりだったじゃない…!!」

日向の言い分は確かに正しい。
数年前からの知り合いだったにも関わらず、初めて話したのは今日のこと。
そのうえその場のノリのような感覚で交際に持ち込んだなんてナンセンスな始まり方だ。
気持ちが通じ合わなくても当たり前だ。

「うん、僕の言い方が悪かった。だから、最初からやり直させて。……僕は日向を好きになった。だから、僕と付き合ってくれませんか?」

「……うん」

恥ずかしそうに呟かれた言葉。
強気な彼女からは想像もつかないその可愛さは反則だと思う。
だけれどもそれでごまかされてなんかやらない。

「ねぇ、日向。素直に――」

僕は自分の口元が緩むのを感じた。





好きって言ったら?




彼女からその言葉を聞いたのは、幾度か押し問答をしてからのこと。
ついでに実はずっと前から僕に興味があったなんて嬉しいカミングアウトまでつけてくれて、僕はより一層彼女に惹かれていくのだ。





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