短編

□眠り姫は襲っていいんだ
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俺は今猛烈に怒っていた。
こんなに腹がたったのは十六年という短い人生の中ではあるが、初めてだった。






放課後に琴音を教室まで迎えに行こうとしたところ、運悪く担任に捕まった。
なんでも、この間の全国模試の結果がよかったとかで、延々と褒め言葉のオンパレード。
別に褒められることは嫌いではないが、琴音が待ってる今はただの煩わしいものでしかない。
笑顔で適当に話を流しながらも結局解放されたのは捕まってから三十分後のことで、教室にはもう他の生徒は誰もいなかった。
内心で担任を罵倒しながら廊下を走る。

琴音の教室に近づくにつれ、話し声が教室から漏れているのに気付いた。
しかも数人の男の声だ。

「おい、やめとけよ…」

そうだよ、と数人の男が言い募っているのが聞こえる。

「だってこんなチャンス早々ねぇよ!!……俺はずっと彼女が好きだったのに、付き合って一年以上の彼氏がいたなんて!!」

嫌な予感がした。
わずかに開いていたドアの隙間から教室を覗く。
中には数人の男が何かを囲んでいた。何かまではここからは見えない。
少し角度をずらしてその何かを見る。
それは二人の男女だった。
男は椅子に腰掛けた女の肩にそっと手をかけようと――

「なにやってんの?」

俺はおもいっきり扉を開けた。

「うわっ!!」

真ん中にいた男が慌てて手を離す。
――俺の、彼女から。

中にいた男たち全員が気まずそうに俺から視線を逸らした。

俺は教室の中に入り、周りにいた男たちが空けた道を通って一直線に琴音もとにやってきて、男を彼女から遠ざけた。

「人の彼女に手をださないでくれますか、先輩?」

琴音は椅子の背もたれによりかかり眠りについていた。
……しかし、これだけ周りが騒がしくても寝てられるとは、本当に無防備としか言いようがない。

「えっと……、その……」

男が一歩ずつ下がって行く。

「あんたが琴音に触れようとしたなんて、虫ずが走る」

それだけ言って、俺は琴音に口づけた。
微かにあいた唇から舌を滑り込ませ、深く吐息を重ねる。

「んっ……んんっ!?」

苦しくなったのか、琴音が目を開いた。
そして状況を把握するとすぐに俺の胸を叩いてくる。

「ゆ…きく……っ」

一度唇を離し、腕を引っ張って立ち上がらせると、今度は俺が椅子に座り、琴音を膝の上に跨がせて再び塞いだ。
最初は抵抗をしていた琴音だったが、頭と腰を固定してしまえば、次第に俺の首に手を回して受け入れてく。

「……はぁっ……」

長い口づけを終えると、琴音が胸にもたれ掛かる。

「腰砕けちゃいました?」

冗談めかしに囁くと、息の上がった艶やかな声で、馬鹿…と返ってくる。

「明日休みですし、今日俺の家着ませんか?うち親いませんし」

再び馬鹿と言われる。
しかしそれが否定の言葉ではないとわかっているので、唇には笑みが浮かぶ。

「では、貴女が歩けるようになってから帰りますか」

俺は琴音を強く抱きしめて視界を塞ぐ。
そして浮かんでいた笑みが消え、動けずにいた男たちを睨みつける。
多分俺は今冷たい目をしていることだろう。
これに懲りたら手を出そうなんて考えるな。視線でそう訴え、作り笑顔をする。実は一番得意な、相手を威嚇する笑顔。
男たちは、音も経てずにあっというまに逃げ去っていった。

「悠紀くん……?」

黙ったままだった俺を不思議に思ったのであろうか。
身じろいで上目使いで見つめられ、心臓が高鳴るのを感じた。

あぁ、愛おしい。

このあと待っている愛する彼女との甘い時間を思い、コクリと喉が鳴った。





眠り姫は襲っていいんだ

(ただし、俺限定で)





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