短編

□彼女とは健全なお付き合いをさせていただいています
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「龍也、急にごめんね…」

出合い頭に日向は申し訳なさそうに口を開いた。

「気にしなくていいよ。そのうち僕のほうにも来てもらうことになりそうだから…」

日向の頭を優しく撫でる。

休日の今日、全国大会も終わったことで久しぶりに部活が休みとなったので、日向の予定を聞いて遊びに誘おうと思っていたのだが、どうやら日向の親が僕を連れて来いと言ったらしく、僕は日向の家へと行くことになった。
僕と日向の関係を僕の親も日向の親も良く思ってないのは知っている。現に僕の親も日向を一度家に連れて来いと言っている。多分小言の一つや二つを言うためだろう。
だから日向の親に呼ばれことに驚きはしなかった。

「大丈夫だから」

心配そうな表情をする日向を安心させるように微笑みかける。

「何言われても、別れるなんてないだろ?」

「当たり前よ」

親に付き合う相手についてどうこう言われたくないわ、そう言って日向は自然な動作で僕の手をとった。
何だか大会の時を思い出し、僕はあの時同様に握られた手を強く握り返した。
ぴくりと反応する体。
振り向いた朱色に染まった顔。
本当に、普段強気なくせにこういうところが可愛すぎる。

僕はにこりと微笑むと、彼女に歩くように促した。





日向の家は僕の家に負けず劣らず広い和風の屋敷だった。

「ただいま」

「遅かったな」

玄関の戸を開くと日向の父親が立っていた。
着流しを綺麗に着こなした、細身の男性。大会などで昔から何度か見たことあるので、今更特に思うところもない。まぁ、相変わらず綺麗な人だなぁくらい。日向は絶対父親似だ。

「お久しぶりです。…こうしてお話するのは初めてですが……。原田龍也です。日向さんとお付き合いさせて頂いてます」

繋いでいた手を離し、会釈をする。

「俺はお前が日向と付き合うなど認めない。さっさと別れろ」

うわー、いきなりか。
すかさず日向が言い返そうとするので、再び手を握ることで制する。

「大丈夫だから」

「うん…」

視線を日向の父親に戻す。
今のやりとりが気に入らなかったのか、日向の父親の顔が険しくなる。

「お聞きしたいのですが、貴方が気に入らないのは僕だからですか?」

日向に彼氏がいるということが気に入らないのか否か――それを臭わすように尋ねると、日向の父親はそれを悟って僕を睨み付ける。

「お前が原田龍也だからだ」

つまりは彼氏がいる云々より原田龍也という人物が問題だと。
成る程。

「一応何でか聞いていいですか?」

聞いたところで僕の気持ちは変わりませんが。
そう付け足すと、ぴくりと動く眉。

「昔から何かと張り合ってきた相手だ。今更付き合うことになったなど絶対に許さん。それにお前のような男は何考えてるか分かりずらいことを俺は知っている。日向を泣かせたり、傷つけたり、あまつさえ傷物にするか分かったものじゃない」

ここまで僕嫌われてるんだ、といっそ感心した。
こんなにはっきり言われると逆に爽快だ。
けど、いくらなんでも理不尽だよね。
僕が引き下がるなんてありえない。

「日向とは健全なお付き合いをしてますのでご心配なく」

にこりと微笑むと、日向の父親が詰まったのが分かった。
僕は自分のこの笑顔が相手にどんな影響を与えるか知っている。
普段は同年代が相手だが、それが大人でも変わりはない。
そこで日向が少し前に出て父親を見上げた。

「お父さんは私が好きな人と結ばれたことを喜んでくれないのね」

切なそうな声をあげる。

「い、いや、そういう訳じゃ……」

「これ以上私の彼氏に文句言うならもうお父さんなんて知らない。」

日向は僕の手を少し強引に引いて家の中に上がった。
どうしようもなくなり、切なそうに日向を見る父親に、少々の同情と莫大の爽快感を覚えた






そして僕は日向の部屋に案内された。
僕の部屋に似た和室。
だけど入った瞬間にするいい匂いや、所々に置かれたぬいぐるみなどを見ると、女の子の部屋だと感じる。

「そこに座ってて。今飲み物取って――」

部屋を出ようとする日向の腕を引いて抱きしめる。

「いいから。ここにいて」

抱く腕を強くすると、日向は僕な体を預けた。

「うん…」

壁に寄り掛かるように座り、足の間に日向を座らせ後ろから抱きしめる。

「…流石にちょっと緊張した……」

大きく息を吐くと、日向はくすくすと笑った。

「あんなに堂々と話してたのに?」

「そりゃ、いくらなんでも好きな子の親に会うのは緊張するよ…」

否定的なの分かってたし、僕だってまだ十三歳だからね…、と呟くと日向は顔を僕のほうに向けた。

「十三歳にしては大人びた人ね」

そう言って笑う日向の笑顔は、それこそ大人びていて、僕は自分の心臓が激しく高鳴るのを感じた。

「日向…」

日向の顎に手を回してそのピンク色の唇に口づける。
唇を離して日向の顔を覗くと、真っ赤な顔をして目を見開いている姿が映る。
その表情を見て、僕は無意識に再び唇を重ねた。
先程より深く日向を求める。
苦しそうに酸素を求めて開かれた口から舌を滑り込ませると、ぴくりと揺れる体。
日向から微かに漏れる甘い声が僕の気持ちを高ぶらせた。
離したくない――そう思いながらもなんとか理性を保って唇を離す。
乱れた呼吸。

「ば…か……」

潤んだ瞳で睨まれても全然怖くない。むしろ可愛くて困る。

「ごめん、つい…。日向が可愛いから…」

「健全なお付き合いって言った舌の根も乾いてないうちに……」

「何言ってんの、日向」

僕は笑う。
後に日向が言っていた、無駄に艶やかな笑顔で。

「恋人同士で何もないほうが不健全だよ」





彼女とは健全なお付き合いをさせていただいております

(僕は間違ったことは言ってないよ?)





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