短編

□下心でもかまいませんか?
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中学一年の一年間を図書委員として過ごした俺は、中学二年でも図書委員になった。
昨年はじゃんけんに負けて仕方なくだったのだが、今年は自分から立候補した。
人気のない委員会に早々と俺が入ったがために女子の間で始まりそうになる、昨年同様のもう一枠の争奪戦。
己の見た目が人並み以上に目立つのは自分でも分かっている。
だけど、そんなものしか見ていない人間に興味はない。
彼女じゃないと、駄目だ。だから俺は早々に手を打つことにする。

「一つ言いたいんですが――」





放課後。
決まったばかりの図書委員の委員会は、委員長と副委員長の選出と仕事内容の説明を早々と済ませ、あっという間に終わりを迎えた。
委員達は終わりと共に『疲れた』や『だるい』などの会話をしながらさっさと図書室を後にしていった。
残ったのは俺と彼女だった。

「今年は案の定人が減りましたねー、桜井先輩」

俺は昨年の半分の人数になった今年の委員の名表を見ながら言った。
報告書を作成していた彼女は、視線を俺へと移す。

「まぁ、当たり前だけどね」

図書委員は昨年の終わりに委員会改革を迎え、今まで各クラス委員二名を強制としていたのだが、一名以上二名以下へと変わったのだ。
それは図書室の利用状況の悪さと、委員の出席率の低さからきたものだった。
一に学業、二に部活という変わった校風を持つ我が校は、委員会の優先順位が低く、昨年の委員で委員会以外で仕事をしていたのは俺と桜井先輩だけだった。
実質、俺たちが毎日図書室にいたと言ってもいい。

「でも、あんたのクラスがあんただけとは思わなかった。委員の座を勝ち取った女子と来るかと思ってたわ」

昨年のことを言っているのだろう。
去年一緒の委員だった女子は、最初のうちは言い寄って来ていたのだが、俺が全てスルーしたことであっという間に委員の仕事を放棄していた。

「まぁ、危うくそうなりかけましたが、早めに手はうったので」

俺は委員決めの時のことを思い出す。


『一つ言いたいんですが。昨年も図書委員は出席率が低かったので、俺一人でもいいでしょうか?仕事しない人が増えても仕方ないので』

言った瞬間、クラスが静まり返った。
しかしすぐに一人のクラスメートの声が響く。

『いいんじゃないかな?図書委員は昨年も実質悠紀ともう一人の先輩しか仕事してなかったみたいだし。それに、図書委員の立候補募った瞬間に手を挙げたのは悠紀だけだったしね』

言ったのは昨年も同じクラスだった我が校の副会長だった。
俺の親友……と言うか、悪友だ。
副会長の鶴の一声もあり、俺は一人だけの図書委員の座を手に入れたのだった。


「手をうったって?」

自分の世界に入り込んでいた俺を桜井先輩が下から覗き込んだ。
なんつーか、上目使いは反則。

「俺一人で十分だって言っただけですよ」

不自然にならないように気を使いながら視線を反らす。
桜井先輩はふーんと呟いて報告書へと向き直る。

「私も言ったよ、一人で十分って。まぁ、あんたと違って、私と一緒にやりたい男子なんてそうそう現れないと思うけど、一応ね」

一応、というのは、昨年のようなやつのことを指してのことなのだろうが、甘いなと思う。
彼女を目当てで図書委員になった人間がここにいるというのに。まぁ、本も好きではあるけど。
そういう意味では、俺だって自分で追い払った女たちと考えは同じなのだ。

「でも、あんたがやってくれて助かったかな」

流石に一人じゃ辛いからねぇ…。と呟いた桜井先輩は、報告書を書か終えたのかシャーペンを置き、チェックするように文字を追った。
俺は横から同じように見る。

「あ、先輩、ここ間違ってる」

書類を奪い、消しゴムで消して新たに文字を綴る。

「しっかりしてくださいね、委員長」

俺は鞄を持ち、報告書を振りながら図書室を後にする。
背後から声が聞こえた気がするが、そのまま職員室へ向かう。

桜井先輩。貴女は俺がいて助かるって言ってくれたけど。
俺の本音が――





下心でもかまいませんか?

(鈍感な彼女は、俺の気持ちなんてきっと気づかないんだろうけど)





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