Short Story(2008)

□お見合いCrisis★
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そんなこんなで数日が過ぎて、俺のイライラは限界に達していた。
で、俺は荒れていた。
「和谷ぁ!飲みにいこうぜっ。」
俺は棋院で手合いがあって、一緒だった和谷を飲みに誘った。
「またか〜?いいけど、お前最近暇なんだな〜。前は飲みに行こうなんて滅多に言わなかったのに。」
みんなと騒いで気を紛らわすしか思いつかなかった。俺はここんとこずっと誰かと遊んでた。
搭矢にメールしたところで返ってくる返事はわかってる。
だからもうメールはしない。
「そっ、俺暇なの。」
「んじゃさ、今日は伊角さんとか電話してみっか!?」
「いいね、それ!」
休憩所で和谷と話していたら、俺の後ろから声がした。
「進藤。」
振り向くと搭矢がいた。
「搭矢…。」
今日搭矢は休みで、棋院に来る予定はないはずだ。格好も仕事用のスーツではなく、厚手のコールテンの焦げ茶色のジャケット、オレンジ系のアーガイルのセーターにベージュのスラックスの休日スタイルだ。
「和谷くん、こんにちは。」
和谷をちらっと見て、搭矢は挨拶した。
「よう。」
和谷は手をあげて返事した。
「進藤、手合いは終わったのか?」
「ああ。」
俺は素っ気なく返す。
俺が搭矢を見た途端、不機嫌になったのを、和谷が俄かに察知して明るい声で言った。
「搭矢、見合いしたんだって?」
芦原さんが俺に搭矢の見合い話をした時、和谷が隣にいたから和谷も知っていた。
雰囲気を明るくしようとして言ったんだろうけど、逆効果だった。
搭矢の顔をが凍りついた。
「何故、それを…。」
「芦原さんから聞いた。なぁ、進藤。」
「あぁ。」
俺はますます不機嫌なっていく。
和谷は俺の顔色を見て、自分が余計なことを言ったと気付いたらしく、それ以上は何もいわなかった。
悪気があるわけではないが、和谷はたまに火に油を注ぐ。今のがそれだ。
「進藤…、ちょっといいか?」
搭矢は決まり悪そうに俺に話し掛けた。
「和谷、飲み無しにして。わりー。」
俺は和谷に一言詫びを入れ、立ち上がって搭矢の後をついて行った。
搭矢はあまり使われてない資料室へ俺を連れて行った。
「なんでここの鍵持ってんだ?」
ここは通常開いていないところだ。
「君が終わるまでここで時間を潰すため、鍵を借りたんだ。」
「俺を待ってたのか?」
「うん。メールを何度もくれたのに邪険にしてしまったから、メールしても無視されるかと思って…。」
搭矢は気まずそうに言った。
確かに、一回くらいシカトしたかもしんねー。そのくらい俺は苛立ってた。
「君知っていたんだね、見合いのこと。だったらすぐに話をしたほうがいいだろう。」
「何もこんなところで話さなくてもいいだろ。」
「でも君だって早いほうがいいだろう?」
やっぱり、見合いの話か…。
休みなのに、搭矢が俺に顔を見せた時点で予想はしていたけど、まだ覚悟は出来てなったから、俺は動揺した。
「別れ話なら家で聞くよ!」
「別れ話……?」
「お前がそんなに早く片付けたいっていうならここでもいいけどさ!いいんじゃねぇ、見合いでも結婚でもなんでもすれば?」
俺は心にもない言葉を搭矢に叩きつけた。
いや、心の底では思っていたのかもしれない。
イライラしてるのは俺の単なるやきもち。搭矢と見合いした女に嫉妬してるんだ。
けど冷静に考えたら、搭矢は普通に結婚して家庭を持つ方が幸せなんじゃないかって思った。
搭矢が俺じゃなくて、そっちを選ぶのは普通のことだし。
そんなこと考えたら気が狂いそうだけど、搭矢の為ならそれも仕方ないって思った。
だから出た言葉なのかも。
けど、搭矢の方から別れるって言われたくなくて、言われたら立ち直れなくなりそうで早口で続けた。
「年上の女なんだって?お前にはお似合いかもな!男と付き合うよりやっぱ女の方がいいんだろ!当然だよ!」
搭矢は何も言わずに俺を睨み据えてる。
「いいぜ、別れても!お前の選択は正しいよ!」
そこまで言い切ると、ぐっと涙が込み上げてきた。
俺は振り返り顔を隠した。
別れるなんて考えてもみなかった。搭矢が俺の告白を受け入れてくれた時、絶対離さないって思ったのに。
でも、これが俺の本心なんだろうな。どこかで俺といても搭矢は幸せじゃないって思ってた。
怒りに任せて言ったわけじゃないし。
俺は下唇を噛んで涙を堪えた。



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