Short Story(2007)

□夜汽車
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「何をしているんだい?」
僕が低く問うと、進藤はビクッと体を揺らし顔を上げた。
「塔矢ぁ!」
彼はサッと立ち上がり、うれしそうに僕を見た。
「迎えに来てくれたの?」
「雨、降りそうだったからさ。」

短パンにパーカー、足にはサンダルという、いかにも部屋着姿の進藤が、照れ臭そうにボソボソと話すのが可笑しくて笑ってしまった。
「なんだよ〜ったく!電話しても繋がらねーし、メールも返事来ねー、山元さんちかけてもスゲー前に帰ったっていうし…。」
「心配してくれたの?」
「当たり前だろ!」
というと、進藤はムッと怖い顔を見せた。
「ありがとう。ごめん…、携帯の充電が切れてしまって連絡できなかったんだ。」
「そっかぁ、どっか寄ってた??」
「イヤ、…そのぉ、」
「ん?」
言いづらく声が小さくなる僕に進藤は顔を近づけてきた。
「…寝てしまって、乗り過ごしたんだよ。」
途端、彼は駅中に響き渡る大きな声で笑い出した。足早に家路へ急ぐ人達の足音しか聞こえない構内が、彼の笑い声で騒がしく感じてくる。
「バッカだな〜。どこまで行ったんだよ。」
「…高尾。」
「あははははっ!高尾?すっげー。」
「…。」
「かなり遠くまで行ったなぁ〜、でも電車ある時間でよかったな。」
「うん。」
「疲れただろ?んじゃ、帰るか!」
「うん。」
大笑いはされたものの、進藤が迎えに来てくれたのがうれしくかった。

雨は一段と激しく降り、止みそうもない。駅の出口で進藤が傘をさした時、僕の頭にある疑問が浮かんだ。
「進藤、傘は一本しか持ってこなかったのか?」
路面にあたると跳ね返ってくるほどの雨だ。普通もう一本もってくるはずだ。
「相合い傘したかったんだよ!ほら、はいれよ。」
進藤はちょっと照れたようにはにかんで、僕の手を引いて傘の中に入れた。
その手の冷たさに僕は驚いた。彼は僕よりちょっと体温が高い。いつも温かい手をしている、なのに…。
僕はさっき彼の言った言葉を反芻した。
――雨、降りそうだったからさ
「進藤!キミはどのくらい待ってたんだ?」
「ん?どのくらいかな…。そんなに待ってねーよ。」
「そんなにって…。」
相合い傘したかったなどとちゃかすけど、こんなに冷たい手をして…、雨が降り出さないうちから待っていたくせに…。
進藤の優しさが胸に染みて、目頭が熱くなるのを感じ僕は俯いた。
「ほら、塔矢濡れる。」




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