Short Story(2009)

□君恋し…冬
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1年の中でも1番寒い2月。
日が暮れると底冷えの寒さに、肩をすぼめてしまう。
今晩はやけに冷え込む。
僕はいつもより広く感じるリビングで独り、暗い窓の外を眺めた。しかし、室外とかなり温度差がある為、窓が曇ってよく見えなかった。
リビングが広く感じる原因は、進藤がいないからだ。
彼は2日前から、仕事で名古屋に行っていている。
そして、今晩帰ってる。
僕には長い2日間だった。
彼がいない時はいつも寂しい。
でも、こんな寒い夜は特に寂しく、進藤が恋しくなる。
彼の温もりが…恋しい。
僕は自分の肩を抱いた。
1分でも、いや1秒でも早く帰って来てほしい。
進藤の帰りを、今か今かと待っていると、テーブルの上の携帯電話が鳴った。
携帯をとり表示を見ると、進藤からだった。
時間からして、きっと駅に着いたんだな。
僕は逸る気持ちをおさえて、電話に出た。
「もしもし」
『あ、塔矢?俺』
進藤の声を聞いただけで、笑みが零れた。
「うん。駅に着いた?」
馬鹿みたいにうわっついた声が出た。
それほど、進藤の帰りを待ち侘びていた。
『それがさぁ…』
しかし進藤の浮かない声が、僕の表情を一瞬にしてくもらせた。
『電車止まっちゃったんだよ』
「え?」
『また人身事故だよ。中央線止まりすぎ』
構内放送も微かに聞こえてくる。
またか…
中央線は本当によく止まる。
僕も車内に一時間以上閉じ込められたことがある。
「今はどこ?」
『中野。タクシー乗ろうとしたんだけど、スゲー行列出来ちゃっててさぁ。あと2駅だから歩いて帰ろうかなって』
電車はいつ動くかわからないし、タクシーだっていつ乗れるかわからない。
確かに歩いた方が早いと僕も思う。
が、もうすぐ帰ってくるとぬか喜びしてしまったから、僕の落胆は大きかった。
「…そうだね」
僕は、あからさまに暗い声を出してしまった。
『あのさぁ、急いで帰るから。走って帰る』
僕の声から気持ちを汲み取ってくれた進藤は、慌て付け足した。
「うん」
『待っててな。じゃ』
電話が切れて、僕はドサッとソファーに腰を降ろした。
たったの2駅だ。歩いても30分もあれば到着する。
そのくらい待てなくてどうする。
頭の中で自分に言い聞かせた。
僕は重い足どりで再び窓の前に行った。
言い聞かせてはみたものの、寂しさは増すばかり、心は落ち着かない。
2駅…。
それだけの距離がなんだか無性に遠く感じた。
窓の曇りを指で拭う。
何もない真っ黒な外を見る。
そこに光る塵のような物が見えた。
その物体が何か確かめようと、窓を開けた。
冷たい風邪が部屋の中に入り込み、僕はブルッと身体を震わせた。
そして外を見れば、細かな白い粒が空から降っていた。
……雪?
そう、粉雪が降っていた。
全く気付かなかったが、今降り出したようには見えない。
どのくらい前から降っていたんだろう。
電車事故に、この雪だ、タクシーが行列なのは当たり前だ。
進藤は大丈夫だろうか…
傘は持っているだろうか…
そう考えたら、居てもたってもいられなかった。
僕はもうじっと待つことはできず、オーバーコートを羽織り外へ飛び出した。
地面はうっすらと白くなっていた。



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