Short Story(2009)

□シンデレラBOY
1ページ/7ページ

「何故、僕がこんなことを!!」
「まぁ、落ち着けよ、搭矢」
「冗談じゃない!!」
アキラは大憤慨していた。
周囲も恐れるくらい、怒りの波動が出まくっている。
みんなは出来るだけ近付かないように、遠目でアキラを見て見ぬふりをしていたが、隣に座らされた和谷だけは避けることが出来ず、アキラの怒りのはけ口になっていた。
「君はこんなことされて平気なのか!?」
「こんなのお遊びじゃん。楽しんじゃえばいいんじゃねぇ?」
「楽しくないものが楽しめるか!!」
「お前、結構イケてるぜ」
「そんなこと言われても嬉しくないっ!」
アキラに睨まれ、和谷は舌をだし肩をすぼめた。
「はい、話はそのくらいにしてください。口紅にぬりますから」
アキラの脇に立つ背の高い男が言った。
アキラはムッとした顔のまま口をつぐんだ。
男はアキラの唇に、ピンク色のグロスをぬった。
ここは東京の某ホテル。
これから日本棋院主催のパーティーが開かれる。
年に一度行われるプロ棋士の懇親会で、毎年選ばれたプロ棋士が企画し内容が決まる。
内容は企画者の自由。
つまり、なんでもありの懇親会なのである。
今年の企画・立案は緒方精次。芦原を始めとする搭矢門下生数名を手駒に練り上げ、この日に至った。
そしてその企画というのは、舞踏会。しかも女流棋士が少ないので、男性棋士の一部が女装するという斬新なアイディアだ…いやもとい、ふざけた企画だ。
でもその企画内容は、当日まで明かされることはなく、会場に来てクジを引かされ、わけもわからず拉致状態で連れて行かれた男性プロ棋士が多数。
アキラも、和谷も、その多数の中の一人。
化粧をされ、脱がされ、着たこともないドレスを着させられた男たちの反応は、慌てる者や呆れる者、楽しむ者や怒る者、と様々だった。
アキラはもちろん怒っていた。
何故自分がこんなことをしなくてはいけないのか、考えれば考えるほど苛立ち腹立たしかった。
そんなアキラの怒りは他所に、支度はどんどん進められ、パーティーの開始時間が近付いていった。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ