Short Story(2009)

□夏の終わりの熱い一日★
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「…暑い」
仰向けに畳に寝そべったアキラは、腕で額の汗を拭った。
「あちぃ…、暑すぎ……」
ヒカルもアキラの隣で、大の字になって天井を仰ぎ、やる気のない声で言った。
今日は珍しく二人でアキラの実家にいた。
通常マンションで暮らしている二人だが、中国にいるアキラの両親から、宅配便を送ったと連絡があり、それを受け取りにやってきたのだ。
宅配便が届くまで、一局打とうと碁盤のあるアキラの部屋に来たが、あまりの暑さに二人とも打つ意欲が湧かず、ゴロゴロとしていた。
もう夏も終わりだというのに、外はかんかんと太陽が照り付け、アスファルトは火傷しそうなほど熱せられ、日陰でさえも汗が吹き出す。わずかに吹く風も身体のほてりを冷ます足しにはならない。
今年の夏は例年にない暑さで、残暑もとても厳しかった。
ここ搭矢邸も、蒸し風呂状態だった。
「なんでお前んちクーラーねェんだよ」
「そんなの前からわかってるだろ。文句言うならついてくることなかったのに」
「だってさぁ、休みの日くらい、ずっと一緒にいたいじゃん」
ヒカルの言い方はぶっきらぼうだったが、嬉しいことを言われて、アキラは少し口元に笑みを浮かべた。
「こんなんじゃ、打てねェよ」
「そうだね。これほど暑いと、頭が働かないよね」
「ぅう…とけそう…」
部屋の隅では、押し入れから出した扇風機が、久しぶりの仕事に精を出していた。しかし、送られてくるのは生温い風ばかりで、ほとんど意味をなさなかった。
ヒカルは寝返りをうち、アキラの方へ向きを変えた。
すると、アキラの首筋にツゥーと汗が流れた。
ヒカルはそれを見て、身体に部屋の熱気とは違う熱を感じた。
アキラはあまり汗をかかない。エアコンを好まず、多少の暑さなら涼しい顔でいる。
そんなアキラが汗をかくのは、主にあの時。
そう…、ヒカルと抱き合っているときなのだ。
ヒカルは、アキラとの情事を思い出し、ゴクリと唾をのんだ。
アキラの白に首に噴き出た汗と、腋の下のシャツの湿りは、ヒカルの脳と下半身を刺激した。
ヒカルは、横向きに身体をゴロンと一回転させ、アキラにピトッとくっついた。
「進藤、暑いよ。寄るな」
アキラはやや渋い顔をして、グーとヒカルを押した。
アキラに押されて、ヒカルはアキラの腕の長さだけ畳を滑った。が、また一回転して戻ってきた。
「なんだよ、暑いだろ。もう!」
アキラはもう一度と押そうとしたが、今度は胸の前にヒカルが腕を回ってきて封じられた。
密着した部分が暑くて、汗が出てくる。
「暑いっ!」
ヒカルを軽く睨んでアキラが言った。
ヒカルはしれっとして、アキラの胸に頬擦りした。
「搭矢、この際だからもっと暑くならない?」
「は?意味が解らない。君…暑くて、頭が茹立ったんじゃないのか?」
「茹立ってみるのも、いいんじゃないかなぁって」
「ん?」
眉を寄せるアキラの上をずり上がり、ヒカルは舐めるようにキスをした。
「ちょっ…進藤!」
アキラはヒカルの肩を押した。
「まさか、君!」
「その、まさかだったりして」
ニッコリ笑うヒカルに、アキラは抗議の眼差しを向けた。
「ふざけるなっ!」
「いいじゃん」
「昼間じゃないか!」
「堅いこというなって」
「冗談じゃないっ!宅配便が来たら、どうするん…ちょっ、ちょっと……ぇ…、ぁ…」
アキラの抗議も虚しく、ヒカルにガッチリと組み敷かれてしまって、身動きが取れず、あっという間にシャツのボタンを外されてしまった。
「やめろっ!進藤っ!」
ヒカルはアキラの前をはだけさせ、腋の下に顔を埋めた。
「何してるんだ!そ、そんなところ!」
そこは、身体の中で1番汗のかきやすい場所で、現にアキラもシャツが湿る程の汗をかいていた。
アキラは恥ずかしくて顔を赤くし、ヒカルの顔を押して、腋をしめた。
「いいじゃんかよ〜」
「君は馬鹿か!何故そんなところ」
「腋の下ってセクシーだろぉ」
「なっ!何がセクシーだ、こんなに汗をかいてるのに」
「そこがいいんじゃん。搭矢の匂いがするし、すげえクる」
アキラは信じられないと言うように、目を皿のようにして絶句した。



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