Short Story(2009)

□Ghost
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進藤の笑顔が見たいのに、僕は憎まれ口ばかり。
進藤の傍にいたいのに、楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
進藤のことをもっと知りたい。
考えるのは進藤のことばかり。
逢いたい…
逢いたい…
逢いたい…
せめて、夢で逢えたら…


『浮かない顔ですね、塔矢』
耳に聞こえてきたのは澄んだ綺麗な声。
目の前にうっすら見える影に、僕は目を凝らす。
その影は僕に近付き、だんだん造形がはっきりしてくる。
そして現れのは…
美しい人。
烏帽子を被り、輝く髪を腰まで伸ばし、平安貴族の装束を身に纏っている美しい男性だ。
『ヒカルに想いは伝えないんですか?』
この人は誰なのだろう…
柔らかい微笑みと穏やかな雰囲気に、懐かしさを感じる。
しかし、なぜ僕の気持ちを知っているんだろう…
「あの…僕が進藤を……その」
『わかっていますよ。塔矢はヒカルが好きなんでしょ?』
ストレートに言われて、カッと顔が熱くなる。
僕は素直にコクリと頷いた。
『それでは、想いを伝えるべきですよ』
「僕は男で、彼も男。きっと気持ち悪いと思われます…」
『そんなことはありませんよ。気持ち伝えてごらんなさい』
「でも…僕にそんな勇気は……」
『塔矢の気持ちを、ヒカルに知ってもらいたいとは思いませんか?』
「僕は……、彼の笑顔を見たいだけで……。彼の傍に居て、もっと彼を知りたいだけ……」
『それだけでいいんですか?あなたの想いが届かなくても?』
想いを伝えてもどうなるわけでもない。
それならばこのままで…
「…………はい」
僕は頷いた。
すると、美しい人は少し困った顔をした。
が、時期に笑顔に戻った。
『ならば、私の力を少々貸して差し上げます』
「ちか、ら?」
『はい。ヒカルの傍にいられますよ』
「それはどういう……」
美しい人は、僕に優しく笑いかけると、光りと共にスーゥと消えていく。
「どういうことですか!?」

あの人は、一体誰だったんだろう……
そうだ…、これはきっと夢だ…
進藤への想いが強すぎて見た夢に違いない。
そう……これは夢…


………はっ!!!
気付けば僕は布団の中にいた。
やっぱり…、今のは夢だったんだな。
変な、夢だった。
あの美しい人は誰だったんだろう…
進藤のことを『ヒカル』と呼んでいた。
彼は一体何物なんだろう。
僕の夢の中の想像上の人物とは思えない。
たった今見ていた夢を、ぼんやり思い起こしながら、僕は眩しく差し込む光の方を向いた。
障子の外はかなりの明るさで、もう陽が高いことが伺える。
随分寝坊してしまったみたいだ。
でも…
今は母が帰国して家にいるから、起こしに来るばずなんだけど…。
僕は身体を起こした。
あれ…
なんだか身体がいつもより軽いような気がする。
違和感がして辺りを見回した。
枕もとにはお盆があり、その上に水が入ったガラスポットとグラス。それと体温計に薬の袋。
そうだった、僕は昨夜高熱を出したんだった。
だから母は起こさないでくれたんだ。
身体が軽いってことは、熱が下がったのかもしれない。
けれど、それは間違いだとすぐに気付いた。
だって次に目にしたのは、横になっている自分の姿。
なっ!!
何故僕がっ!
僕は僕で…
これも僕で…
はぁぁ????
何が何だかわからず、僕は慌てふためき混乱した。
もしかして僕は死んでしまったのだろうか?
死んだ直後、魂が己の姿を見ると聞いたことがある。
そんな…まさか……
僕は僕の顔を覗き見た。
スヤスヤと寝息が聞こえる。
それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。
生きてる。
いや、安心してる場合じゃない。
なんなんだ、これは!
僕は尚もまた混乱した。
すると、
『あなたは姿は誰にも見えません』
突如聞こえて来た声。
僕は驚き、右往左往顔を動かす。
誰もいない。
『今ならヒカルの傍にいけますよ』
この声は…
夢の中の美しい人。
『さぁ、お行きなさい』
「どういうことですか?あれは夢じゃないんですか?」
僕は聞いた。
が、返事はない。
「あなたは誰?誰にも見えないってどういうことですか?ねぇ……。……。教えてください!……。教えてくださいよっ!!」
僕は一生懸命叫んだが、やはり返事はなかった。
なんなんだ、一体。
僕は誰にも、…見えない。
僕は自分の身体を見た。
半透明に透ける僕の身体。
実体ががあるのは、ここに眠る僕。
これは有体離脱みたいなもので、僕は今、魂だけの存在なのかもしれない。
あの人は言っていた。
今なら進藤の傍に行けると。
今なら……
急に胸がざわめき出す。
逢いたい…
進藤に逢いたい。
この姿なら誰にも気付かれず、進藤の傍にいけるんだ。
ずっと傍で彼の顔を見ていられる。
僕は横たわる僕の身体を見た。
ちゃんと戻ってくるから、少しだけ時間を頂戴。
僕は身体から離れ、宙に舞い上がった。
そして僕は、実体がないまま外へ飛び出した。



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