Short Story(2007)

□Teenage Dream★
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アキラはそわそわしていた。
碁を打っている間、落ち着きがない。今、ヒカルの家で碁を打っている。

一ヶ月前にヒカルから告白をされた。
自分もヒカルと同じ気持ちであったから、同性であるのは重々承知で付き合うことにした。
恋人同士になってからも、二人は何の変わりもなかった。
同性であるがゆえ、人にいうことはできない。外では良き友人良きライバルである。
二人でいるときも、まだどちらも恋人という感覚に慣れず、キスをするのもぎこちなく、
その先に進めないでいた。
今朝、仕事先の棋院でヒカルが緊張した面持ちでアキラに告げた。
「今日、泊まりにこない?」
その表情からアキラは悟った。
― やる気だ ―
アキラももとより、いつかはそうなるであろうと思っていた。いやなりたいと思っていた。
ヒカルへの想いは、恋人になって一層増していき、ヒカルと交わりたいと強く思うようになった。
ただ男性はもちろんのこと、女性とも性交渉をしたことのないアキラはどうしたらいいのかわからなかった。
ヒカルに抱きしめられ、キスをされ、身体は火照るのにやり方も誘い方もわからなかった。
そして、なにより不安が大きかった。
大好きにヒカルに自分の裸体をさらけ出すことや、なにも纏わずヒカルに抱きしめられたらどうにかなってしまうのではないかと、気が気ではなかった。
しかしこのまま前に進めないのでは自分としても嫌なので、アキラはヒカルの誘いに首を縦にふった。

それからアキラはずっとそのことばかり考えている。
既に期待と不安と緊張で集中力もない。
ヒカルと打っていても、体だけの感覚で打っているだけで心はうわの空だった。
ヒカルの方も穏やかではない。
アキラほど表にでていないだけで、心臓はバクバクだった。
アキラのように不安感はないが、期待は遥かに大きく、今宵の行為を想像するだけで、胸が掻き立てられた。
それに加え、ヒカルが誘った意味をわかって家にやってきたアキラの様子が愛おしく、
理性を保っていなければ、今にも押し倒してしまいそうな状態だった。
お互いこれから何をするのかわかっていながら、普通を装いたくて始めた対局だったが、内容は悲惨なものだった。
若手トップと言われた棋士が打っているとは思えない散々な有様だ。
けれど、二人は内容はまったく気に留めず、進行度合いばかり気にしていた。
終局が近づくにつれ、アキラは落ち着きはさらになくなりモジモジし出し、ヒカルはその様を見て期待が膨らみ、こらえ切れない笑みを下を向くことで隠そうとしていた。
対局の結果は、ヒカルの7目半勝ち。本来中押しで終わっていてもよさそうだったが、寄せまでやってしまったことが二人の心情を表している。
この勝敗はきっと、どちらが余裕があるかの判断材料であったと言えよう。
おもむろにヒカルが立ち上がった。
アキラはそれを目で追った。
クローゼットを開け水色のやわらかそうなバスタオルを1枚手に取り、それをアキラに手渡しながら、ヒカルが、
「風呂入ってこいよ。」
とやさしく微笑んだ。
アキラは見る見る赤く染まっていく顔にバスタオルを当てコクリと頷き、そそくさとバスルームに向かった。


それぞれの想いを巡らしながら、交代に入浴を済ませ、いよいよその時がやってきた。
1DKのヒカルの家は、10畳ほどの広めのダイニングキッチンと15畳の部屋がある。
15畳の部屋は、ドアから見ると正面右コーナーにテレビが置かれ、その右壁に沿ってオーディオや本の置いてある棚があり、中央には長方形のローテーブル、ドアを背にして3人掛けのソファーがある。それから左手前の角にパソコン机、ドアの並びに備え付けのクローゼット、左壁にくっつくようにセミダブルのベッドが置いてありヒカルの寝室を兼ねている。
ヒカルが風呂から上がってくると、アキラは、ベッドから程遠いソファーの端の床に、きちっと正座してボーっと前を見ていた。
テレビの方を向くでなく、テーブルにもたれるてもなく、なぜか棚に向き合い、極めて不自然な方向を向いて座っている。
ベッドを背にして、明らかにベッドを意識しているのがよくわかる。
「塔矢。」
ヒカルが声をかけると、アキラははじかれたように体を跳ねさせ、ヒカルを見上げた。
「寝ようか。」
ヒカルはアキラの脇に来てすわり、アキラの手を握り言った。
アキラは目線は握られた手に移り、じっと見たままゆっくり頷いた。
「俺のベッドで、いいよな?」
ヒカルの問いに、手から目を離さずにまた頷いた。
友人時代からも含めて、ヒカルの家に何度も泊まっているが、ヒカルのベッドに寝たことはない。いつも、ベッドの下に布団を敷きそこで寝ていたのである。
ヒカルはアキラを立たせ、誘導するようにベッドに向かった。



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