Short Story(2007)

□いつも…★
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塔矢は見かけによらずイチャイチャするのが好きだ。
自分から積極的に甘えたりはしないが、俺がベタベタするのは嫌がらない。
それに、隣に座って艶めいた瞳で俺を見つめてくることも少なくない。俺が我慢出来なくなるのを知ってて、そういう目で見るんだ。
結局、俺が先に塔矢を触ったり、擦り寄ったりするんだけど、あいつが仕向けてんだ。

今日も塔矢は俺の家にいる。
今、塔矢先生たちが中国にいるから、その間はだいたいウチで生活してる。
「あ〜、負けたぁ。」
夕飯を済ませ、俺と塔矢は早碁をしていた。
で、負けた。
「僕は紅茶を飲むけど、君は?」
碁石を片付けて、塔矢は立ち上がるとキッチンに向かった。
「塔矢のちょっと頂戴。」
「わかった。」
俺はソファーにドサッと座りこんだ。
「あそこがまずかったよな〜、塔矢が右下桂馬に打った時さぁ、俺あそこのヨミ抜けたぁ〜。」
キッチンまで届く声で塔矢に話しかけた。
「あの前に、君がコスミを打てば形勢はかわってたな。」
キッチンから答えが帰ってきた。
「そっかぁ?」
家で打ったものでも、負けるとやっぱ悔しい。
俺はさっきの対局を頭の中でなぞった。
「それでも僕が勝ったけどね。」
キッチンから戻って来た塔矢が笑いながら言った。
それで、3人がけのソファーの端っこに座ってた俺の隣に座り、手に持ったカップを差し出した。
「はい。」
「サンキュ。」
カップを受け取り、ちらっと塔矢を見た。
夕飯を食って、風呂に入ってから打ったから、塔矢も俺も寝間着姿だった。
塔矢は、濃紺の無地のパジャマに黒のカーデガンを羽織っている。こういうダーク系を着ていると、肌の白さが際立って見える。
しっとりとした柔らかい白い肌。何度も触っているけど、見ているだけで触りたくなる。
俺は一口飲んで、ティーカップを塔矢に返した。
塔矢はカップを手を温めるように両手で持ち、それを一口飲んで、フゥーと息を漏らした。
なんて悩ましいんだ。
俺が見ているのに気付き、塔矢がこっちを向いて首を傾げた。
「もっと飲む?」
潤んだ艶めいた瞳、あの目だ!
くぅ〜っ、こいつ、俺を誘ってやがる。
いつも俺ばっか甘えてるみたいだから、たまには塔矢に甘えてほしい。塔矢から擦り寄ってほしい。俺は誘いに乗るものかと、頭をブンブンと振った。
「そう。」
塔矢は紅茶はいらないと解釈したらしく、もう一口、口に含んだ。
カップのふちに触れる唇、どれもこれも俺には目の毒だ。
俺は塔矢を見ないように正面に向き直った。
「進藤?どうしたの?」
カップをテーブルに置き、そっと俺の腿に手を乗せた。
ドキッとした。
ただ腿に手を乗せられただけなのに、しかも相手は俺の恋人なのに。
なんでこんなにドキドキするんだよ〜。
「ん?どうもしないさ。」
俺は普通なふりをした。
「いつもと違うよ。」
「そうか?」
塔矢は顔を近付けてまた首を傾げた。
「何?どこが違う?」
「だって…隣に座れば…いつも……」
そう言って俯くと、塔矢は言葉を濁した。
やっぱコイツ知ってんだ。どうゆう顔すれば俺が我慢できなくなるか。確信犯だぜ。
「いつも何だよ。」
俺はわざと聞いた。
「…いつもは……」
その先は聞こえない。
かわり上目使いに俺を見てから、ギュッと抱きついてきた。
か、かわいい〜。
塔矢の方から甘えてくれて、俺はのぼせそうになった。そして我慢効かなくなった。
「塔矢。」
俺も塔矢を強く抱きしめた。
「…進藤。」
俺の胸に頬を擦り寄せて、甘い声で俺の名を呼ぶ。
なんだかすげぇ幸せだ。
「…いつも…こうして…くれるだろ…」
胸の中で小さく塔矢が言った。
「そうだな、ごめんな。」
俺は、塔矢に顔を上げさせ、軽く触れるだけのキスをした。
塔矢は嬉しそうに笑いかけてくれ、愛おしむように頬と頬を擦り合わせた。



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