Short Story(2007)

□十六夜〜izayoi〜
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進藤の寝室は大きな出窓があり、月がよく見える。
濃密な時間を過ごした後、窓を開け放した。気持ちいい秋の夜風が入ってくる。
今夜も月が美しい。でも物悲しく感じる月だ。満月ではない、少し欠けている。
〜ああ…、十六夜かぁ…
十六夜の月を見ていたら、途端に不安が襲ってきた。
手合いの勝率もよく、いい碁が打てていて満足している、大切な人もいつも傍にいて愛してくれる。
とても幸せな日々を送っているけど、いつか終わってしまうのではないか。
あの月のように、進藤の愛も満ちて、そして欠けて行ってしまうのでは…。
深く愛し合った後、こんなことを考えるなんて馬鹿げている。
でも、言い知れぬ不安は消えてくれない。
「あー、さっぱりした!」
ぼんやり月を見ていると、後ろで進藤の声がした。汗を流しにシャワーを浴び、出てきたところだ。
「何見てんだ?」
彼はそう言ってベッドに座っていた僕を後ろから抱きしめた。
「月。」
「月かぁ、キレーだなぁ。」
「うん…。でも僕はあの月は嫌いだ。」
「なんで?」
進藤は僕の首に頭を擦り付けながら聞く。
「欠けてる。」
「ん?」
擦り付けるのを止めた彼は、肩に顎を乗せて月を見上げた。
「そういえば、満月じゃねーな。」
「十六夜だよ。」
「いざよい?」
「満月は十五夜だろ?その次の日の月がいざよいだよ。」
「へー、じゃぁこれからどんどんちっちゃくなるだ。」
「…そうだ。」
僕は月から目を離し俯いた。
「で?欠けてると嫌いなんだ?」
横から進藤が顔を覗き込んで来た。僕はボソッと言葉を零す。
「…ずっと満月ならいいのに。…満ちたまま…ずっと…ずっと。」不安に押し潰されそうだった。
そしてこんなことを考える自分が情けない。
僕は身を翻し、進藤に抱き着くと支えきれなかった彼が体勢を崩し、そのまま二人でベッドに倒れこんだ。
「搭矢?」
「…。」
僕は何も言わずしがみついていた。
すると進藤は、親が子供にするように僕の頭を撫で始めた。
「月はさぁ…、でっかくなったり、ちっちゃくなったりするからキレーなんじゃん。」
「…。」
「…でも月はそうでもさぁ、なんでもそうって訳じゃねーじゃん。」
言葉を選びゆっくりと進藤は話す。
僕の不安を感じとったのかもしれない。こういう時、彼はやたらと察しがいい。
彼の言葉に耳を傾けた。
「その…あれだ。いっぱいになっても減らないものだってあるし…。…あー、温泉とか!あとからあとから湧いてくるじゃん。いっぱいになっても溢れてくる。」
彼の言ってることはよくわかる。言葉は稚拙だが、自分の愛もそうだと言ってくれてるのだろう。
うれしい…。不安が薄らいで行き、心が和らぐ。
ただ例えが彼らしくて、おかしくて、吹き出しそうになるのをグッと堪えた。
「ほら、新宿とか六本木とかだってすげーたくさんビル立ってんのに、まだ立つんだぜ〜。もう立つとこなんてねぇーのになぁ…。ありゃ止まんねーよ。」
温泉の次はビルかぁ…。
さすがにこれには堪えられず、僕は笑い出してしまった。
「なんだよぉ!お前がなんか考えてるっぽかったから、俺!ちぇっ!」
僕はどうにか笑いをおさめ、進藤を見ると、両頬を膨らませ、ふて腐れてそっぽを向いている。
「すまない、笑ったりして。」
彼の目線と同じ所まではい上がり言った。
「ありがとう。とてもわかりやすい話だったよ。」
「お前、馬鹿にしてんだろ!」
「してないよ。元気になったよ、ありがとう。」
彼の唇に軽くキスを落とすと、膨れた頬は元に戻り、照れくさそうに笑った。
僕たちの愛は、月ではなく温泉なんだね。
君は温泉のように溢れる愛で、僕を温めてくれる。
溢れてやむことのない愛で…。


「進藤、今度温泉にいこうか?」
「え!マジ?マジ?」
「うん。」
「やったぁ!!どこにする!?」
「あとでゆっくり決めよう。」
「え〜、今決める。箱根?草津とかは?栃木にもいいとこあったよなぁ?どうせだから遠出すっか!なぁ?なぁ?」


それから僕たちは、長い時間話をしていた。
話疲れて眠りについたころには、十六夜の月は既に沈んでいた。


〜Fin〜


2007.10/16




【あとがき】
『十六夜の月』というw-indsの曲と『十四夜の月』(←間違ってるかも)という松任谷由実の曲がとても好きなんです。
いざよい、という響きも好きですね〜。
だからつい書いちゃいました。
勃発的に書いたので、内容と表現が変だけど…。
温泉の話はまた今度、ってことで!
最後までお読みいただきありがとうございましたm(__)m



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