Short Story(2007)

□Lonely 7 Days★
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アキラは一人の時間に慣れていた。親は自分が15歳の時から、中国に滞在することが多くなり、それからは実家で一人で暮らしのようなものだった。
一人で食事をし、碁の勉強をし、誰もいない家で一人で寝る。
寂しいと思ったことはない。
けれど、それはもう昔のこと。
アキラはヒカルに恋し、思い思われ、一緒に住むようになった。
朝はヒカルの明るい笑顔と声で目覚め、仕事が終われば二人で食事をし、碁を打ち検討をしたりたわいもない話をしたりし、夜は深く愛し合い寄り添い眠りにつく。
互いに囲碁界の若手トップと言われており、忙しい毎日を送っていたが、朝晩のわずかな時間を共に過ごせるだけで幸せだった。
そんな日々を送っていたアキラは、すっかり一人の時間の使い方を忘れてしまった。
ヒカルは、仕事で韓国に一週間行っている。
だから、出発の日と帰国の日以外、中5日はまったく会うことができない。
出発の日は、アキラは休みだった為、ヒカルを送りに空港まで行った。
その時は『頑張ってこい!』と発破をかけ、笑顔で見送った。
しかし、家に戻ってくると、ヒカルのいない空間に、言いようのない寂しさが襲ってきた。
国内の棋戦やイベントで、1日や2日家を空けることはあったが、ヒカルが一週間も家を離れるのは、初めてのことだった。
どうしようもない寂しさに、アキラはただうずくまって、ヒカルのことを考えることしかできなかった。
その日は、到着したヒカルから電話がかかってきたので、明るく大はしゃぎのヒカルの声を聞いて、いくらか寂しさもまぎれた。
が、翌日、翌々日と日が経つにつれ、寂しさは加速を増してアキラの心に積もっていった。
日中仕事をしている時はまだよかった。仕事していれば、碁を打っていれば没頭できる。
でも家に帰ると駄目だった。
アキラは、やはりうずくまってヒカルのことばかり考える有様。
ヒカルの韓国滞在も4日目になると、さすがにアキラもこれではまずいと思った。
今後もヒカルが長く家を空けることもあるだろう。その度にこんな状態では仕方ない。
アキラは寂しさを堪え、頭の片隅にある一人の過ごし方を思い出し、碁盤に向かった。

そして6日目。
長い長い一週間ももうすぐ終わる。
アキラは朝から精力的に動いた。
仕事は休みなので、部屋の掃除、洗濯などをした。
アキラは、ベランダに出て洗濯物を干した。
ヒカルが韓国に発った日は、ウダウダと考えていて結局なにもせず終わってしまい、それから毎日仕事で洗い物が貯まってしまっていた。
通常、乾燥機で乾かしてしまうが、天気のいい日は外に干すようにしている。ヒカルが太陽の匂いをたくさん吸い込んだ服を、いたく気に入っているからだ。アキラもその匂いが大好きだった。
秋空には鰯雲が浮かび、まだ昇りきっていない太陽の柔らかい日差しが降り注ぐ。爽やかな風が真っ直ぐ伸びたアキラの黒髪を揺らした。
― 韓国も晴れてるかな…。 ―
空を見上げてアキラは思った。
何をしてもヒカルのことを考えてしまう。
明日は、ヒカルが帰ってくる。
待ち遠しい気持ちはある、しかし積もり積もった寂しさは、そろそろ限界だった。



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