からくり。sideW
□ 硝子の部屋
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「おやつだよ、二人とも」
カラさんの部屋でカラさんとウツロさんにパイを出したあと。僕は刹那の部屋に来ていた。
二人はまるで二人が双子の兄妹のようにぴっとりといっしょだった。離れたことなど無いかのように、二人がいる《世界》の空気は完璧だった。
「おやつ?」
ベッドの傍らで首を傾げ、玉響が言う。
「……私は食べられないから要らないわ」
ベッドから睨み上げ、刹那は言う。
二者個々別々の反応を返して来る。僕は馴れているので構わず、だが。
それに、主の双子を相手するよりは気安い。
「わかってるよ。きみには、ロイヤルミルクティーを用意してるよ刹那」
「なら良いけど」
「ちょっとも食べられないの?」
不意に声が上がり僕と刹那は一点を見詰めた。勿論、発言者の玉響だが。
「食べられないかな? ……ムクイのお菓子は美味しいよ」
「イチジ……」
無邪気な子供の如く、舌足らずに問い掛けるイチジは悲しいまでに残酷だ。刹那は、どうしようも無く泣きそうな顔をする。
刹那の体は、食べ物を受け付けない体なのだ。日々か細くなる体が、生きているだけでも不可思議なのに。
食糧は刹那の体には栄養摂取にならない。むしろ痛め付けるだけだ。
玉響がそこまで理解したかはともかく、刹那が顔を悲哀に歪めたことで焦って前言を取り消した。
「ご、ごめん! 無理なんだね、き、気にしないで! 僕が悪かったんだ」
「違う、イチジは悪くないの。悪いのは、……」
いつになく殊勝な刹那が口籠もった。ますます玉響が弱る。その表情ったら、叱られた犬みたいだ。
僕は一人蚊帳の外に居座って、部屋のテーブルにワゴンで運んで来たおやつの用意をする。玉響の分だけを。
カラさんに仕込まれた給仕の仕事は、『カラクリ』の特性も手伝って今日も欠点一つ無い。満足だ。
用意を終え二人へ向き直ると、未だやり合っていた。や、要するに責任の負い合いと言うか。アレだ。“私が悪い”“いや私が”と言う、アレ。
ひっそり溜め息を吐く。僕は人間では無いから寿命の縮まりようも身体の老けようも不幸にすらなりようも無いけど。
いい加減、どうかなって思う。異常じゃないかな。溜め息ばかりがずぅっと出ている気がするんだ。