からくり。sideW
□ 少女の追想と主の笑い
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「あ……」
体が動かない。どうして……? 指が、震え……。
「動かないほうが良い」
彼女の前に現れたのは、館の主。
「……あ、あ……」
「声を出すのもツラいだろう。良いんだよ。黙っておいで。────でないと、
尽きてしまうよ、すぐに」
少女は唇を噛んだ。その様子から、日頃の気丈な素振りなど窺えない。
主は少女の点滴を換えた。労るみたいな科白とは裏腹に少女を面白がっているように見えた。
ああ……もう、駄目なのね。
「駄目だろうね。でもよく持ったほうだよ。『不良品』の体の割に」
声は相も変わらず痛ましそうなのに、科白と顔は裏腹だ。
もし、ここに件の『カラクリ』がいれば睥睨くらい浴びせたかもしれない。彼女とて、普段の強気な状態ならば。
だが少女は呼吸を細く浅く繰り返すだけ。たまに節々か神経が指先まで痛み流れぬ涙を浮かべるのみ。
「どうかしたかい?」
喘ぐ風に開く口は何かを告げようとする行動。理解していて、主は声を掛けた。
到底、言葉にならぬと知っていて。
「ツラいね」
ツラいわよ。
「困ったね」
困ってなんか無いくせに。
嘘付き。
「……」
少女が元気で在ったなら。
畳み掛けたい雑言がたくさん在った。
叶わない。それも。
けれど。
「わかっているよ」
初めて、ここで主の言動が一致した。
尚も陸に上げられた魚のように開閉する少女の唇にやさしく、だけど悲しげに微笑んで。
「……大丈夫だよ」
主は告げた。
そこで流れないまま溜まるだけだった涙が、
少女の瞳から流れた。
少女は美しかったがあまり街には下りなかった。
樵夫(きこり)の父と山奥に二人暮らしだった。
栄え、機械と錬金術が入り交じる街を尻目に父と二人せっせと家業に従事した。荒くれの父。しかし誰よりあたたかくやさしかった父。少女は満足だった。
父に負けず声を張る気性の荒い娘に育ったが、少女は誰より美しかった。
着飾るドレスも最新式の機械鳥も要らないわ。ただ父と自然に囲まれた中でいられるなら。
そう思っていたのだ。
だけれど。