からくり。sideW
□ 由緒正しき血統の憂鬱
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「兄様、出掛けてしまうの?」
幼い少年は、常に追い掛ける年上の少年の背に問い掛けた。年上の少年は、自分より小さな姿を振り返って微笑んだ。
「うん」
それは短く端的に。幼い少年は胸を痛めた。その答え方が、何だかこれ以上踏み込むなと忠告を、拒絶を受けているようで。胸が、ちくり、ではなく、ずきっ、と、痛んだ。
それでも。
「ど、どちらへ?」
気力を振り絞り続ける。絞り出した声は、蚊の鳴き声よりきっと微かで。
年上の少年に届いたか、どうか。しかし。
「ちょっとね」
年上の少年は聞こえていた。でも、返って来たのははぐらかしたようなぼやけた返答。
……それきり。
二人の間に会話は生まれず、二人は分かたれた。
もしかしたら。
『この日』、彼らは道をも分かったのかもしれない。
もしも、幼い少年が食い下がったなら。
やさしい年上の少年は弱ったようにしながらけれど「仕方ないな」と笑って教えてくれたのではないか。そうであれば、幼い少年は無理に跡をつけることもしなかったのに。
もしも、年上の少年が自らが通う場を理由を教えたなら。
幼い少年はこっそり年上の少年の逢瀬を覗き見ることも無く、年上の少年の愛する少女とか、年上の少年の、幼い彼には見せたことの無い顔とかを知らずに済んだのではないか。
ましてや。
ましてや、少女が原因で王位継承権を辞退するなどと。
妄想せず済んだのではないか。
……今となっては詮無いこと。
何にせよ二人は分かたれ、年上の少年は、幼い少年は、……少女は。
『運命』が存在するならば、『この日』、まさに運命を決められたのだ。
「……王?」
「───何だ」
「ぼうっとなされてましたから……如何されましたか?」
「……何でもない」
虚空を睨む王。
現在の威厳に満ち溢れた姿に、昔の異母兄の背を慕って追う幼子の面影は微塵も無かった。
【→It continues to 魔術師の見解 .】