からくり。sideG
□ 警鐘
1ページ/2ページ
…………─────。
「……イチジはヒビのところかい?」
刹那に処置し終えた点滴の空袋を始末する最中、声が戸口から掛かった。ひょろりとした長身痩躯の男がどこか道化染みた笑みを口元に浮かべ立っている。
紳士然とした、けれどもどこか偽物のように嘘臭く見える男。────“カラさん”。
『空』とも『殻』とも『乾』とも取れる韻────たがその名はどの字かは判然とせずまた僕は気にしていなかったので。胡散臭い感覚も慣れてしまえば大した要因にはならない。
「ヒビも相変わらずなのだね」
言いながらどこか微笑ましそうに、だけどどこか面白がって。カラさんは瞳を細め弓なりに反らす。
「……」
カラさんはこの館の主だ。
「さて。きみにも手間を掛けさせるね」
労る風に喋る一方で実態はそんな考えなど一切無いみたいな言い方をし、カラさんは僕に笑った。
「別に……。この館の管理は僕の役目ですから」
おや、と片方の眉を撥ねさせカラさんは笑みを深くする。逐一、何もかもが作り物のごとく演技っぽい。……まぁ、慣れてしまえば何てことも無いのだけど。
カラさんが細やかにも大袈裟な動作をするたびに、長く伸ばされた彼の髪が舞い揺れる。軽やかに流れる髪はまるで判明しない彼の本質のようで────その実[異質]に見えた。
だけれど。
これこそがこの館、その真正な性質なのだ。
拭い去るなど叶わず、絶えず掻き毟るみたいに抱える違和感。間違いなく異物感を伴った。そう思い付いた矢先。
僕の脳内でアラームが鳴った。
「おや、」
「……」
けたたましく僕の頭の中で鳴く、これは警告音。
「“彼ら”もめげないね」
カラさんは『カラクリ』ではないし、アラームは僕の中でしか聞こえない。とは言え主であるのだから彼にもわかるのだ。
この館に────《保護区域》に、『侵入者』が現れたことは。僕は空袋の一通りの処理をすると、カラさんが佇む横を通り抜け部屋を出る。
僕がいたのは廃棄処理室だった。ここで生活していれば出て来る廃棄物を名前のまま処理する場所。たとえばさっきの刹那の点滴の空袋とか玉響の食事に使った食材の残骸あるいは食後に出たゴミとか。そんなものを処分する。
「『お迎え』に行くのかい?」