からくり。sideB
□ 闖入者
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─────…………。
「ぐぅ……はぁっ……」
───目の前で男が苦しんでいる。肺に穴が明いて膨らまないからかもしれない。
佇んで見下す、僕には関係ないけれど。
男は僕と同じような黒いコートを纏っていた。と言っても今に至ってはただのぼろ切れで、コートなんて上等な代物ではなくなってしまったけれど。
そんな男によく似た格好の事切れた木偶が、そこらに散らばっていた。男もいずれ後を追うだろう。
「……」
僕は何の感情も浮かべられないままひたすら男の悲しいまでに細い呼吸を眺めた。苦しいだろうな、とは思う。
僕も昔、苦しかったから。
やがて男が僕を見上げた。僕は驚いた。純粋に凄い、と思った。
男と来たら僕が考えるより頑丈で、まだ僕を見返すだけの余裕が在ったんだもの。
死ぬ間際の渾身の力と言う訳か。何と不気味な。
回復したりはしないだろうか。錬金術師の造る、まるでホムンクルスのように。
僕も言わば人造人間だが、どちらかと言うならば僕はオートマタと言われる部類なので。
しかし僕のそんな危惧を余所に男は僕を睨み上げながらもその体を弱らせていた。よしよし。
「……おい、」
僕は吃驚する。何だって?
男は程無く息絶えるだろうにそのはずなのに、何が起きたか喋り出した。素直に怖い。
「お前、『カラクリ』だろう」
男は、一息一息外に放し寿命を縮めながらその生気をエネルギーに還しながら。当たり前のことを口にした。
ごくごく当たり前のことを。
「そうだけど」
「やはりな」
わかっているならわざわざ確認なんて要らないじゃないか。なのに、何でまたわざわざ問うたのだろう。
自分の命を、その瞬間を、換えてまで。
まったく知り得ないことをする。これだから人間はわからない。────もっとも。
「……」
人間同士であっても通じ合えはしないんだろうけど。
ねぇ、刹那?
「……して……」
「え?」
僕が思考の果てに意識を飛ばしている間、その体を維持するのもやっとだろう男は、本当に信じられない程の強靭な精神力だろう。