Novel3
□せのび
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ベンチに座り、雑誌を左手に、ついさっき買った紙パックの牛乳を袋から取り出す。雑誌を左手の中指と薬指で挟み、親指と人差し指、右手を使ってストローをパックから外して袋から押し出した。伸ばしたそれを右手でパックの挿し口に挿そうとしたが、軽い手応えのもと、薄いプラスチックの筒は折れてしまった。チッと舌打ちをして、和歌山はストローを真っ直ぐにし、多少の怒りを込めて突きさす。ストローは今度はきちんとささってくれ、和歌山はストローをくわえて、白い中身を口の中に導いた。
「…………和歌?」
恐る恐る、といった感じで、聞き慣れた声が和歌山に話し掛ける。雑誌から顔をあげれば、目の前には見知った顔。怪訝な顔をした徳島に、和歌山はあっと息をのんだ。
「……もしかして、見てた?」
「うん」
「どっから?」
「はじめから」
どうやら、自分の今の醜態を徳島はばっちり見ていたらしい。
「誰にも言わんといてな」
「あんなん、別に喋っても面白ないわ」
さらりと言っておいてから、でも、と徳島は言葉をついだ。
「和歌、牛乳好きやったっけ」
「ん?いや、べつに………」
「でも最近、よう飲んどるな」
「…………」
和歌山が気まずそうに黙ると、何かを察したらしい徳島はふふっと笑った。
「徳、何ね」
「べつに?」
「あぁそぉ」
「僕はもう帰るけど、和歌、一つ忠告や」
にやり、笑った徳島は身を翻して。
「牛乳やなくて、豆乳の方が背は伸びるんよ」
「徳!!」
和歌山が叫ぶが、その声は徳島の背中にあたって跳ね返り、毛ほどのダメージも残さずに消えた。
「要らんこと言う奴や………」
手元の牛乳パックを見て、中身を一気に吸い出す。ぷは、とストローを解放すると、変な音がして少しへこんだパックが元に戻った。
(こんな事意味ないなんて判ってる)
ただ、標準より小さい私が、標準より大きい彼に追い付きたいだけで。
いつも、自分が子供みたいに感じてくる。実際は自分のほうが年上なのに。
(せめて、千葉の顎ぐらいまでは欲しいなぁ………)
空になったパックを見て、ため息をつく。千葉はそのままで良いと言うが、それでは和歌山の気が済まないのだ。悶々と考えていたら、
「和歌山?」
ぽす、肩に手を置かれる。見上げれば、愛しい人。
「ち、ば………なんでここに居るんね」
「俺がどこに居たって良かんべ」
笑った千葉は、背もたれのないベンチを跨いで、和歌山の隣に座った。
「ん?お前また牛乳飲んでんのか」
「うん、まぁ………」
「よく飲めるな………なんでそんなに飲んでんだべ」
「べつに、あがの勝手っしょ」
可愛くない答えに我ながら後悔する。
「ま、良いけど。背ぇ伸びるもんな」
「、そんな子供っぽいこと、せんよ」
雑誌をめくりつつまた口答えすれば、千葉はそうだよなとまた笑って、ベンチから立ち上がった。
「じゃあな」
「ん。またね」
「おー」
すたすたと歩き去っていく千葉の後ろ姿に、甘いため息を一つついた。
せのび
(笑われたっていいの)
(あなたに追い付きたくて)
千和っていうか千←和?みたいな感じになってしまった………自分の中では付き合ってる設定なんですが。ちなみに最初の牛乳パック事件(笑)は私の実体験ですww
通りすがりA様、こんなんでよろしければ貰ってください!