Novel

□旅立つ雛に号泣
2ページ/2ページ





ドアを開けた銀時の視界に飛び込んできたのは、真っ白なウェディングドレスを着た神楽だった。


「神楽、お前、」

「銀ちゃん!!」


美しく化粧をした神楽は静かに椅子に座っていたが、入ってきた銀時を認めた途端に立ち上がり、抱き着いてきた。


「どうアルカ、私!!」

「…………おう、綺麗だぜ」


言葉はそれだけしか出て来なかった。しかし、神楽はそれに頬を染めて、ふにゃりと笑う。


「そういう銀ちゃんも格好良いネ。似合ってるヨ」

「そうかー?俺は首がキツくてたまんねーんだけど」

「神楽!あまり動くと折角綺麗にした髪が崩れてしまうぞ。大人しくしていなんし」


いつものスリットの入った着物ではなく紋付きの振袖を着ている月詠が、神楽をたしなめる。吉原で働いていて化粧にも詳しいので、神楽の係を任されたのだ。


「銀時も、今は首もとを緩めても良いと思うぞ」

「、あぁ…………」


少し落ち着かない銀時の様子を見て、月詠が微笑んだ。


「綺麗じゃろう?神楽はもとが良いからな。化粧をしても映えるし、色が白いからウェディングドレスもよく似合う」

「ツッキー、止めてヨ。照れちゃうヨ」


それを聞いた神楽が、恥じらった様子を見せる。やっといつもの調子に戻れた銀時が、それに軽口を添えた。


「あぁ、普段の神楽からは想像できねぇな。普段の、あの神楽からはな」

「銀ちゃん!」

「クク、すまんすまん」


月詠が目配せしてきた。どうやらいつもの調子でなかったのは銀時だけではなかったらしく、しかしそれは、今ので少し改善されたらしかった。


「新八は?」

「あぁ、バーさんと一緒に受付やってる」

「そっか…………皆来てるアルカ?」

「おう、続々…………俺も散々いじられたし」


新八に選んでもらった燕尾服姿を見て、客は皆笑うのだった。俺がかしこまった格好で固まっているのが可笑しいらしい。銀さんはもっとリラックスして立っていなきゃ、と、妙に言われたものだ。


「そっか…………」


それを聞くと、神楽はそれきり黙ってしまった。月詠が神楽に見えないように、口元に人差し指をたてた。どうやらあまり深く追及してはいけないらしい。銀時はそれを察すると、近くの椅子に座った。



何故だろう、神楽が遠くて仕方がなかった。













「ねぇ、銀ちゃん」

「んー?」


銀時と神楽は、閉ざされたチャペルの扉の前に立っていた。チャペルの中では、多くの客と新郎が、花嫁の入場を待ち侘びている。銀時が柄にもなく緊張していると、隣でしおらしくしていた神楽が声をかけてきた。


「ありがと、ネ」

「何だよ、今さら」


面食らって神楽を見ると、神楽は微笑んで銀時を見上げた。


「私、色々銀ちゃんに迷惑かけたアル。ホントに色々。だけど銀ちゃん、ずっと一緒に居てくれたヨ。だから…………」

「いいんだよ、んなコト」


神楽の言葉を遮って、銀時は言った。


「確かに最初は、なんつー拾い物しちまったんだ、と思ったが………お前は俺の家族なんだ。当たり前だ」

「、銀ちゃん…………」

「だから、離婚したら堂々と帰ってきて良いんだぜ?俺も新八も快く出迎えてやらぁ」

「ッ…………離婚なんか、しないネ…………」


声を詰まらせる神楽に、銀時は少しだけ慌てた。


「おい、泣くなよ!化粧が崩れるぞ」

「う、じゃあ泣かないアル…………」

「泣くつもりだったのかよ!」

「新婦入場!」


クリステルのアナウンスで、ギィ、と扉が開かれる。銀時は慌てて神楽の手をとり、足を踏み出した。





長いようで短い、短いようで長い赤い道を歩く。蜂蜜色の髪をした花婿に、横の美しい花嫁を渡すために。





「銀ちゃん…………ホントに、ありがとネ」

「だから良いっつってんだろ?良い嫁さんになれよ」

「、うん」



そう言いながら、神楽の細い手を沖田に渡す。緊張した様子の新郎新婦は立ち止まった銀時から離れ、神父の方に歩んでいった。







「ッ……………」




ゆらり、視界がぼやけた。






それに躊躇っていると、横から新八に引っ張られた。どうにか堪えて、新八の横に立つ。







(娘を送る気持ちって、こういう事を言うのかねぇ…………)







ぼんやりとそう思いながら、白い後ろ姿を眺める。









その姿も、誓いの言葉を交わす声が聞こえてくる頃には、ぼやけて何も見えなくなっていた。

















旅立つ雛に号泣















(雛が背中を見せたときから)
(号泣する準備は出来ていた)

















ロイヤルウェディングを見て。綺麗でしたね、ケイトさん…………。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ