Novel2

□愛し子に送る物語
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カタン、と物音がした。
振り返ると扉の陰からこちらを見ていた我が愛し子とばっちり目が合って。慌てふためいているところを見ると、バレていないつもりであったらしい。


「どうしたの、アキ」

「うっ………」

「また泥だらけ………ケンカ?」

「ん………」


あちこちにかすり傷をつくり、目に涙をためてうつむくアキをリビングに連れていく。救急箱を取り出し手当てしていると、ぽつぽつと喋りはじめた。


「………川で遊んでたら、村の奴らが来たんだ」

「そう」

「ちょっと見ただけなのに、睨んだとか言って、」

「、まぁ」


アキの大きな目は彼譲りでちょっとキツイ。睨んだように見えるのもしょうがないのかもしれないが、少し可哀相だった。


「睨んでないって言ったのに嘘つきって言われて、悔しくなって、睨んでやったら、ケンカになって」

「うん、(………結局睨んじゃったのね)」

「………親父がいないくせに、って言われた」

「………!!」


絆創膏を貼っていた手を止めてアキの顔を見ると、ちょうど目尻からぽろっと涙が落ちたところで。子供は何の関係もない事を繋げて考えてしまう事があるとは分かってはいるが、自分の子供が巻き込まれるのは腹がたつことだった。

「〜〜〜っ、ふぇ………」

「そう………辛かったわね」


嗚咽をもらす息子を腕の中に閉じ込める。父の顔を見ずに育ってきたアキが、どうしようもなく愛しかった。


「大丈夫よ………アキのお父さんはとーっても強くて、ちょっと無鉄砲なところなところもあるけど優しくて、凄い人なんだから」

「ひっく、………本当に?」

「ええ、本当よ」

「レオ兄とか母さんより?」

「レオや母さんよりずーっとずーっと強いわよ」


私譲りの柔らかい金色をくしゃりと撫でる。ずずっ、と鼻をすする音が耳元で聞こえた。


「じゃあ、もう大丈夫だ」

「そう?」

「うん。だって父さんがそんなに強いんなら、オレだって強いもん」

「ふふ、そうね」


涙のあとがついた頬をごしごしとこすってやる。そして、良いことを思い付いた。


「じゃあ着替えたら、ご本を読んであげようか」

「え、本当に?何の本?」


途端、ぱあっと明るくなる顔。こういうところはまだ子供で、そして、ナツに似ていた。


「アキが好きな、冒険のお話よ」
「やった!!じゃあ着替えてくるね!!」
「いってらっしゃい」


私が書いた、私と彼と仲間達の冒険の物語――――その一番目の読者になる息子の背中を見送って、私はふっと微笑んだ。
















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