Novel2

□おうちデートin鰐島家
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皆さんこんにちは、中山弥生です。
私は今、今世紀最大にして最高の山場を迎えております。
告白と交際開始という大きな山場を乗り越えてきた私に次に来たのは、恋人同士になった者には必ず来るモノ。



デートというものでございまして。

〜おうちデートin鰐島家〜





咢くんに誘われたのは、皆がエアトレックの練習をしている最中、走りっぱなしだった咢くんが私のいた屋上に休憩しにきたときだった。


「あ、咢くん。青汁飲む?」
「いや………ポカリを………」


ふらふらとした足どりで屋上まで来た咢くんは、ポカリの500mlペットを、一気に半分飲み干した。と思うと、日陰にばたんと倒れてしまう。


「なぁ…………中山」
「、ん?」


寝ていたと思っていた咢くんに話しかけられ、私は校庭から顔をあげた。


「…………明日、」



うちに、こねぇか。



ちいさな声で呟かれた。



「…………!!」


私がびっくりして振り返ると、咢くんは寝転がって私に背を向けたまま、先程より少し大きな声で言った。


「明日は、亜紀人補習だから」
「、えっと、」


つまり、亜紀人くんに冷やかされずに帰れると。



「………………」
「………………」



沈黙。



「じゃ、あ…………お、お邪魔させて、頂きます………」


私は何とか口を開いた。最後の方は消え入るようになってしまったが、咢くんには伝わったらしい。咢くんはばねのように跳ね起きた。


「…………ん」


短く声を発した咢くんは、ひょいっと屋上から飛び降りてしまった。後に残されたのは、半分残ったポカリとエアトレックの音と、それから恐らく顔を真っ赤にしているだろう私。


「これって…………もしや、デート…………?」


私はその事実に、数分ほうけてから気が付いたのだった。










運命のXデーは、あっという間に来た。学校帰りの、しかも俗に言うおうちデートなので、服に気を使わなくていいのは有り難いことである。それはさておき、問題はいかに下校するかであった。


「…………カラス達はさておき…………」


咢くんが暑さのせいだけではない汗を拭きながら言った。因みにイッキくん達にはパーツの調達と買い出しだと言ってある。ついでにデートかと散々冷やかされたが、まぁ何とかできた。


目下の問題、は―――――


「…………」
「…………」
「…………」


背中が、痛いです。


「ファック………超絶めんどくせぇ」


咢くんのファンが、ナイフのような視線を投げ付けてくるせいで。


「……………ど、どうしよう」


びしびし感じます、ファンの皆さんの思いを。
―――なんで中山如きが私の咢くんの隣にいるんじゃい―――
そんなとこ。実を言うとこの交際は内輪にしか知らせていない極秘なものなので、ファンの皆さんの反応も判らなくはないのである。でもさすがに耐え切れなくなって、小さく吐いた弱音が咢くんの耳に届いたようで(もしかして、咢くんって地獄耳?)、ギロリと睨まられた。


「チッ……………」


咢くんが、くしゃりと前髪をかきあげる。その仕草が様になっていて見とれていたら、その手で鞄を持っていない方の手を握られた。


「ふぇっ!!?」
「手っ取り早く逃げる!!」


至極単純な作戦を叫んでダッシュ。後ろから親衛隊の黄色い声が追い掛けてきたが、それよりなにより。


(手…………!!)


一方的に握られた手に熱が集まる。こっちの気持ちも無視し、咢くんは全力疾走だ。恋人なん
だからと言われたって、今まで軽いスキンシップだってしてこなかった私が、パニクらないわけがない。


「もういいか………」


そう言って、咢くんは立ち止まった。学校は遠くなり、家の間から時計塔を覗かせるばかりになっている。


「ハァ、ハァ………」


肩で息をして呼吸を整える。陸上部で鍛えているつもりだが、さすがに心臓をバクバクさせながら走ったら駄目だった。


「………行くぞ」


私の息が少し落ち着いたのを見計らって、咢くんが歩きだす。

手を握ったまま。


「あ、咢くん………!!」
「ア?」
「て………!!」


あぁ、と繋がった手を見た咢くんは、次に私を見た。


「駄目か」
「へ?」
「繋いだままじゃ駄目なのか」


若干上目遣いな咢くん。無意識でも、こんな表情は小悪魔な亜紀人くんを思い出させて、やっぱり双子だなぁなんて、関係ない事を考えてしまう。そうじゃなくて。


「え、あ………」
「………」
「う………」


結局、折れてしまった。
それから少し、咢くんに連れられて歩く。


「………え?」


咢くんが立ち止まった先、見出だした光景に、私は驚愕の声をあげた。







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