05/01の日記
02:41
A
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「…………美しいお色をして居ますね」
彼女は面食らった様でしたが、ビー玉に惹かれた様子で、まだ僕の前に立っていました。
「そうだ、ね」
某れはよく見たら、彼女の愛らしいひとみとおんなし色をして居たのでした。
僕は無性に腹立たしい気分になって、でもこれ以上無礼を働くのは嫌でしたから、某れをずいと彼女の前に差し出しました。
「そんなに欲しいのなら、あげるよ。」
このときばかり、僕の口の悪いのを後悔したことったらありません。
何しろ彼女は、怖ず怖ずと某れを受け取って、爛漫の笑みを浮かべて見せたのです。
「有難う、」
「、べつに、」
急に僕は面映ゆくなって、制帽を目深にずり下ろしました。最後の無礼をお許し下さい、ビー玉の君よ。
ビー玉の君はもう一度その独特な頭を深々と下げて、それから名残惜しそうにいずこかへ去って行かれました。この僕の散々な無礼に対し、お辞儀までして下すったのです。
某れは、数瞬の出逢いでした。
明治文学的な雲髑。
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02:38
某れは数瞬の出逢いでした(Re!雲髑.明治時代的な)
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某れは、数瞬の出逢いでした。
あれは春爛漫の盛を少し過ぎた頃でしたか、僕は気に入りのマントと制帽を身に着けて、近くの公園まで歩いて行ったのでした。
桜は満開を終えて、はらはら散って行きます。僕は咲き誇っているのを観るより、命の終わりを感じさせる散りかけのが好きな、他人とは少し違うところが有ると自分でも自覚していて、それでいて自分を直さないような子供で。
桜の古木の下に据え付けられた長椅子に座り、ビー玉――父上に頂いた渡来の玩具――を指で玩びながら、僕はぼうとして桜を見上げていました。
「某れは、渡来の物ですか?」
前を見ると、女学校に通っているらしい、葡萄色した袴の少女が立って、ビー玉に目を落としていました。
髪は艶やかな翠の黒で、ひとみが紫にかかやいています。髪型が南国に成る凰梨と云う果実のへたに似ていて、それが僕の級友の小憎たらしい笑顔と重なって、僕の心をちくちくと刺しました。
「ビー玉というものだよ。」
僕は男尊女卑とか云うふざけた物とは無縁でしたが、元来の捻くれた人と為と、その妙な苛立ちのおかげで、幾分ぶっきらぼうな口を利いてしまいました。
続きます。
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