H.short
□月の見る夜
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眠れない夜。
今日は月がよく見える。
やんわりとした月明りが、僕と、僕の足音と共に軋む廊下を照らした。
どうも寝付けないために廊下を適当に歩いていると、月明りではない、もっと明るい光が廊下の一部分だけを照らしていた。
ふと、俯かせていた顔をあげる。
そこは…
(名無しちゃんの部屋だ…)
紛れもない、昼間に何度も何度も足を踏み入れた、あの子の部屋。
自分がこの気持ちに…名無しちゃんへの気持ちに気付いたのはつい最近の事。
これが恋か、と思い知らされた。
それから何度かチャンスがあればアタックを繰り返していた。
(明かりが付いてるって事は…)
彼女も眠れないのだろうか。
障子の向こう側からは物音なんかしないけど。
ものはためし、僕は声をかけてみた。
「名無しちゃん、起きてるの?」
すると、障子の向こう側からガサッという音と共に
『はいぃ!?』
なんておかしな声が聞こえてくる。