Perfect marionet becomes human.

□第一話
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「日本に逃げましょう」
「逃げる……?」

よく分からなかった私は、世話役だった男の言葉に首を傾げた。
何故逃げなければならないのだろう?

「貴女様の今の状況が良いはずがございません。日本の友枝町という所へ私が家を手配いたしました」
「手配……」
「良いですか、お嬢様。今から、貴女は雨宮玲と名乗らねばなりません」

「玲ちゃん」

目を開けると、銀髪が目に入った。近くに住んでいる人で、月城雪兎と言う高校生だった。

「夢、か……」
「大丈夫?うなされてたようだったけど」
「平気だ、おはよう。雪兎」
「うん、おはよう」

雪兎は爽やかに笑って、私の体を起こした。
あれからもう三年は経っている。今更、あんな夢を見るなんて。

「雪兎、着替えるから出てろ」
「はいはい」

別に着替えを見られる事に何とも思わないが、雪兎や友人達に「女の子の着替えは見られちゃいけないんだよ!」と言われて気を付ける様にしている。

「着替えた」
「あ、朝ごはん並べておいたよ。食べようか」

雪兎は私がこの家に一人暮らしだと知ると、小学生が一人じゃ危ないからと世話を焼いてくれるようになった。
朝ごはんも持ってくるし、起こしにくる。

「ごめんね、今日は早かったでしょ。玲ちゃん、朝苦手なのに」
「……ん、私が世話になっているのに、ワガママは言えない」

そう言うと、でこピンを一発食らった。そんなに痛くない。

「わがまま言っていいんだよ。あ、髪がハネてる」

先に食べ終わった雪兎が私の髪を弄って整える。その間にダラダラとご飯を食べる。
昔なら、きっと怒られていただろう。

「はい、出来た。食器片付けるから用意しておいでよ」
「ああ、すまな」

またでこピンを食らう。雪兎は私に目線を合わせて学校の先生のように言った。

「こういう時は、「ありがとう」って言うんだよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

この通り、私は皆が当たり前に使う言葉を知らない。その上、人より人の気持ちに疎い。昔は一切自分の気持ちですら分からなかったくらいだ。

「用意出来た、もう一度寝たい」
「駄目だよ、桃矢が待ってるから。学校で寝ようか」
「それは出来ない」

そんな事を言いながら、私は雪兎に手を引かれて外に出る。鍵をしっかりかけて首から下げる。

「帰りは何時?」
「いつも通りだと思う」
「分かった。お腹空いたら先に食べてていいからね」
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