Which is right Moon's Guardian?

□月と新たな生活
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日本に来て、大きな洋館で私達は暮らし始めた。
毎日様々なカードを作って、それに振り回されたり一緒になって遊んだり。

ある春の日の夜、私はケルベロスが眠ったのを確認して庭園に来た。
桜が満開で、綺麗に咲いていた。

向こうに居た頃、華世とよく見に行ったな。桜の散るのが美しくて、二人で花びらを集めて押し花にしていた。

「ユエ」
「!」

後ろから気配がして、振り返るとクロウが居た。もう寝ている筈なのにどうしてまだ起きているんだろうか。また悪戯でも思い付いたか?
溜息を吐いてクロウへ「早く寝ろ」と言おうとした。

「桜を見た事が?」
「……」

昼間、桜を珍しそうにケルベロスは見つめていた。それなら、当然私も知らないだろう。
だが、私には前世の記憶がある。だから驚きもしなかった。

「ユエ、私に何を隠している?」
「何故聞く?お前なら、聞かずとも知る事が出来るだろう」

私がそう言うと、クロウは笑って首を振った。それではいけないのだと。

「それではユエの気持ちは分からない。私に分かるのは事実だけだ」
「それでいいんじゃないのか?」
「それではいけない。私は君の気持ちも知りたい」

クロウを試すような事をしたが、クロウは決して私の望まない事はしない。私の口から聞きたいのだとよく分かった。
だから、私もクロウに向き直った。

「クロウ・リード。貴方が私を真に信じてくれると言うのなら、私も我が身に起こった事を話そう。信じてくれるか?」
「勿論」

クロウがそう言ってくれたから、私は自分の話をした。
自分が元は女子高校生であること。
車に轢かれかけた友人を助けて死んでしまった事。
クロウカードの様な不思議なカードを使ってみた事。
目を開けたらユエになっていた事。
自分はこの世界の未来を知っている事。
――――本当のユエと、成り代わってしまった事。

「成程、面白い話だ」
「正直今でも私がユエでいいのか不安だ」
「大丈夫」

クロウは私の頬に触れた。温かいこの手が、私の不安を消してしまうようだった。

「お前が私の創ったユエに間違いない。過去は消す事も変える事も出来ない。だが、今は私の「月」だ」

フッと笑って、クロウの手を握った。クロウの言葉が嬉しくて、安心できて。
だから、私は決めた。

「私の以前の名は、月影優樹と言うんだ。貴方に話す事で、私はこの名を捨てよう」
「捨ててはいけない」
「どうして?」

名を捨てて「ユエ」になろうとした私に、クロウは止めた。不思議だと思って聞くと、クロウは苦笑した。

「大事な名前だからだよ。優樹、忘れてはいけない。大事な貴女の名前を」
「……分かった。なら、クロウ。時々呼んでくれ。私が忘れないように」
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