Which is right Moon's Guardian?

□月と新たな生活
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すっかり冬になり、雪が降り積もる日だった。
薄暗い部屋にケルベロスと一緒に呼ばれて、いきなり爆弾でも落とされたような事を言われた。

本当は知っているけれど、私はとっさにこの言葉を口にしていた。

「説明しろ!クロウ!どういう意味だ?何故そんなことを……」
「言った通りの意味だよ、ユエ。今日わたしはこの世を去る」

二度目の言葉に、衝撃が襲ってきた。いつか来ると思っていた。分かっていた。
だけど、早すぎる。思ったよりも、ずっと。
覚悟しなければならないと分かっていて、今の今まで逃げ続けた。

「あまり笑えない冗談だな」
「残念ながら冗談じゃないんだよ」

冗談ではない事くらい、分かっている。そして、「この世界」で死んだクロウ・リードがどこへ向かうかもおおよそ分かっている。

「何で……何で今日なんだ!それにどうして!?」

それでも認めたくなくて、私は足掻いた。知っていても、否定してほしかったから。
それくらい、私にとってクロウは大きな存在になっていた。

「寿命だよ」

クロウは優しく、天気の話でもするように言った。目の前が真っ暗になったかのような私の代わりに、ケルベロスが言った。

「寿命?フッ、根性は曲がっているがクロウリードは世界一の魔術師だ!それは、創られた俺達が一番よく知っている!」

そう、知っている。私は特に。
彼の願いもその未来も分かっている。でも、それを一つも応援出来ない。

「それでも、全ての生き物に等しく終わりはやってくる。だからわたしも準備をしなければ」
「何の準備を?」
「わたしの後におまえ達を慈しんでくれる人のための準備だよ」

そう言ってくれるクロウに、私は怒りを感じた。自分でも分からないほどの強い怒りを。
どうしてそう言うなら、傍に居てくれないんだ!!

「他の主なんているか……。私はクロウ以外の主など認めない!」
「ではユエが決めればいい。その人が主としてふさわしいかどうか」
「ふさわしい奴なんかいない!」

本当はいる事を知っている。そして、それがどんな人物なのかも知ってる。
それでも、私の……優樹の事まで知って受け入れてくれるかどうかなんて分からない。
私の不安を知っているかのように、クロウが見つめてくるから私は目を逸らしてしまった。
だが、クロウは私の腕を引っ張って優しく言い聞かせた。

「きっと現れるよ。おまえが認める新しい主が」
「私を受け入れてくれる主なんていない!私は……っ」
「ユエ」

私を抱き寄せたクロウが、耳元で「優樹」と小さく呼んだ。

「大丈夫、貴女も認められる。貴女は貴女、私が創ったユエだ」

私が以前の、優樹だったなら、きっと泣いていただろう。自分の死後も私を案じてくれるその優しさが嬉しく、同時に悲しかった。

「ユエとケルベロスとクロウカードはわたしが持てる力と心をすべて注いで創った者達だ。だからこそわたしが逝ったあとも新しい主の元で幸せに過ごしてほしいんだよ」

クロウの願いを聞きながら、私は「月の紋章」へと姿を変えてクロウカードを収めた本の裏表紙に配置された。

私は、お前が。クロウが居てくれなければ、何も出来ない臆病者なのに。
そう思いながらも、ゆっくりと永い眠りについた。
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