Which is right Moon's Guardian?

□月と本物の月
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深い眠りの世界の中を私は彷徨っていた。
白い空間の中で目を覚ました私は、隣に誰かいるのを感じた。

「優樹」
「!」

彼を見た瞬間、白い空間に沢山の記憶が溢れかえった。
彼をよく知っている。今の私とそっくりで、違う所と言ったら少々男に近い事くらいだろう。

「ゆ、ユエ!?何故、どうしてここに!」
「お前の世界を見てきた。お前の代わりに」

ユエの一言目は、私に立場を取られた怒りでも、私に対する罵詈雑言でも無かった。

「私の……?」
「事故で死んだだろう?私の立場を譲ったのは私の意思だ。お前の望みはあのカードから伝わった」

その言葉に、私の今の状況はユエが私の願いを叶えてくれたからだという事を知った。
視界が揺れる。大好きなクロウと引き離されて、その立場を私なんかに譲って。

「泣くな、私の意思だと言ったはずだ」
「だが、ユエは私のせいで」
「クロウなら、お前の心を癒してくれると思った」

ユエは私の涙をその手で拭った。その優しさが嬉しくて。
ユエは私が落ち着くのを見計らってから話し始めた。

「お前の世界で、華世という女が泣いていた。自分のせいだとな」
「違う!華世を助けたのは私の意思だ!」

思わずそう返すと、ユエは溜息を吐いた。

「先程のお前と同じだ。私の意思だと言ったのに構わず己を責める」
「あ……」
「だから、気にするな。それに、私は雪兎としてお前達の傍にいる」
「え?」

ユエの唐突な言葉に目を見開いた。ユエが、雪兎に?なら、私の役目は?
混乱した私に、ユエは丁寧に説明した。

「私は雪兎にはなるが、もう「月の守護者」ではない。クロウカードにも、最後の審判にも関わるつもりは無い」
「だ、だが!ユエが居るのに私がだなんて」
「この世界の私はお前だ、優樹。私とお前では違い過ぎる、ケルベロスだって気付くはずだ」

ユエの言う事はもっともだった。確かに、あのクロウとケルベロスと共に居たのは私だ。
だが、最後の審判で私にあんな人を傷付ける事が出来るだろうか。
迷う私に、ユエは言った。

「無理に私と同じ事をしなくていい」
「え?」
「クロウにも言われただろう、自由に生きろと」

クロウは確かに、自由にしろと言った。でも、私は最後の審判を行う審判者だ。非情な事でもしなくてはならない立場だろうに。

「恐れるな。どうしても無理ならば途中で交代してやれる。だが、最後に決めるのはお前だ」
「……」
「私はお前の傍にいる。不安ならば、頼れ」

そこまで甘やかしてくれるユエに、私はユエの手を握った。
人間ではないと言うけれど、人間と変わらないくらいユエの手は暖かかった。

「ユエ、なら私はいつでも交代出来るように仮の姿の人格と会話出来るようにしておく」
「分かった。優樹、起きるまでまだ時間がある。お前の世界で見た物の話でもしよう」

ユエは私を気遣ってか、たくさん話をしてくれた。華世のその後、私の学校、家族達。
全て聞くのが楽しくて、クロウの居なくなった悲しみが少しだけ和らいだ。
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