夏目優人帳
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「じゃーな、夏目」
「あぁ、また明日」
西村と北本と別れて、1人帰路につく。
曲がり角を曲がろうとしたとき―
―どんっ
「うわっ」
『きゃっ』
誰かにぶつかってしまった。
いや、正確に言えば誰かが自分にぶつかってきた。
ぶつかった反動でお互いにしりもちをついてしまった。
「あ、あの……大丈夫ですか……?」
あわてて立ち上がり手を差し伸べる。
どこか痛めてしまってはいないだろうか。
『あ……ありがとうございます』
帽子を深くかぶっていてわからなかったが、声からして女性だったようだ。
服装を見れば女性用の着物を着ているし、体型をよく見れば……うん、なんともアレなので考えるのはやめよう。
彼女は自分の手を俺の手にそっと乗せて立ち上がった。
『すみません……前を見ずに走っていたので……』
申し訳ないです、と帽子をとって頭を下げた彼女の声は鈴の音のようによく響いた。
「いや、俺も注意深く前見てなかったんで……。
気にしないでください」
顔を上げるように促すと、ありがとうございますと微笑まれた。
―トクン……
心臓が高鳴った。
初対面の人なのに……。
自問自答をしていると、彼女がきょとんとした顔で俺を覗き込んでいた。
『あ、あの……大丈夫、ですか……?』
「だ、大丈夫……」
なんだか恥ずかしくなってきた。
たぶん今俺の顔は真っ赤なんだろう。
お互い気まずい空気が流れる。
するとどこからか足音が聞こえてきた。
『あ……っ』
彼女が声をあげる。
何事かと顔を上げると、妖がすぐそこまで来ていた。
彼女は妖の方を見て固まっている。
もしかして彼女は……
「(妖が……見える、のか……?)」
そんな考えがふと頭によぎったが、今はそれどころではない。
「とりあえず走るぞ!もう少し先に行くと神社がある!」
『え……っ!?は、はい……!』
俺はとっさに彼女の腕を掴み、走り出した。
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