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□満月の契約
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「契約って言っても、僕は何をすればいいの?」
翠を見上げて聞く。

「俺の生き血を飲め」
僕とは対照に翠は僕を見下ろす。

「はあ!?」
僕は不満げな声を漏らす。

「それで契約が完了する」
仮面と扇子を床に置く翠。


「契約したら僕はどうなるんだよ」
翠を見つめて返事を待つ僕。

「俺のものになる。あれだ、人間で言う…恋人?」
翠はうろうろしながら言った。

「恋人!?何言ってんだよ!男同士だぞ!?」
僕は思わず叫ぶ。

「女ならいいのか?」
じろりと翠の瞳が僕を見る。

「うん」
少し怯んでしまう。

「いいんだ。お前、女みたいに細いから。」
ぎゅっと僕の腕を掴む翠。

「なっ…どういう意味だよ!」
必死にもがくが、全く離してくれない翠。

「…守ってやりたくなる」
翠は優しい目を僕に向ける。

「うるさい」
翠から目を反らす。



男に守られたって嬉しくない。そもそも僕は男だ。

でも、何故 翠には適わないんだろう。


「海里、上向け」
翠により、僕は上を向かされる。

「翠?」
翠の手首から血が流れている。

「動くなよ」
言ってるそばから顔を動かしてしまった。

「…ったく…」
イラついた様子の翠は自分の血を舐め取る。







翠の唇が僕の唇に触れる。

口の中に広がる血の味。何とも言えない鉄の味だ。



「んっ…!!」
どんどんと翠の胸板を叩く。

全く効かない。


翠は舌を絡めてくる。初めての感覚に目眩がする。

激しい舌の動き。荒い息。

立っていられない…



僕は床に崩れ落ちる。翠も一緒に倒れ込んだ。

翠の足が股の間に入り込む。身動きが取れない。後ろは床で逃げれない。


翠の足が股間に当たる。





「……っ!」
身体がピクリと跳ねる。

「はあ…」
翠は口を離す。

「はっ…はあ…」
息が荒くなる。

「可愛いな」
ニヤリと笑って僕の自身をズボン越しに触る翠。

「や…っ!!」
変な声が出てしまう。


「人間は敏感だな」
翠は僕のズボンのチャックを下ろしながらシャツのボタンに手をかける。

「やめっ…あ!」
生理的に涙が浮かぶ。

「熱い…」
僕の自身に触れて言う翠。

「言うな!!」
僕は固く目を閉ざす。

「……」
翠はクスクス笑う。




こいつ…僕の反応見て楽しんでる!何て奴だ!


「…う…っ!!」
思いも儚く、簡単に果ててしまった。



翠は手に付いた白い液体を僕に見せつけるように舐めとる。


「…何でこんな事っ」
両手で顔を覆った。

「お前が言う事聞かないからお仕置き」
悪戯っぽく笑う翠。

「……っ」
キッと翠を睨む。

「ちゃんと言う事聞けば何もしねぇよ」
翠は僕の頭を撫でる。



「契約は?」

「もう終わった。俺の血と唾液を飲んだだろ?」
僕の唇に触れる翠。

「…うん」
少し恥ずかしくなる。

「なら契約は終了だ。今日はもう帰れ」
翠は僕を起き上がらせる。


「うわ、真っ暗だ」
御堂の外を見渡す。

「今日は家から出てはいけない」
僕に顔を近付けて言う翠。

「何で?」
キョトンとして翠をみる僕。

「満月だから」
翠の瞳は真剣そのものだ。

「…わかった」
僕は訳がわからないまま頷いた。






1人で帰り道を歩く。翠はいない。

着いて行くと言われたけど、断ってきた。


「…にしても、暗いなあ…」
月が浮かぶ夜空を見た。

月しかない。周りの街灯は薄暗い。月の光が頼りだ。



――――――――カツ、

カツカツ…

人通りの少ない道から足音が聞こえる。ゆっくりゆっくり、背後から迫ってくる。





勢い良く振り向く。

「…誰ですか?」
振り向くと顔色の悪い、知らない男がいた。

「………」
男は答えない。

「あ、あの…」
ジッと男の様子を伺う。

「くくくくっ…」
前髪で表情が見えないが、男は笑っているようだ。


…ヤバい。何かわからないけど、この人に恐怖を感じた。

満月にかかった雲が晴れる。




月で見えた男の顔。

それはまさに、獣だった。
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