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□学校
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俺は、朝が来るのを夜空を見て待つ。


羽がなくなって不思議な感じだ。服の着心地は着物と同じなのに、着物じゃない。

いざとなれば元に戻れるが、海里の為だ。






―――――――朝。

ヂリリリリリリン

大きな音が鳴る。


「何だ!?」
俺は部屋を見渡す。

「目覚ましだよ」
そして海里は音を止める。

「めざ、まし…?」
何だそれは。聞き覚えのない名前だ。


「早く着替えなきゃ」
服を着替える海里。

「どこかに行くのか?」
俺は海里に尋ねる。

「学校!」
海里は慌てているようだ。

「がっこー?」
翠の服をじっと見る。


「翠〜、起きてるか〜?」
部屋の外から男の声がする。

「…起きてるよ」
素っ気なく返事する海里。

「入るぞ」
楽しげな扉の向こうの男。

「ちょ…入んないでっ……」
海里が止めに入るも男は入って来た。





「ただいま、海里」
ニコニコした男。

「はあ…もう」
不機嫌そうな海里の表情。

「海里の友達?」
男は俺を指差して言う。

「うん、友達。昨日泊まってもらってたんだ」
海里は素っ気ない返事ばかり返す。

「…誰だ?」
男を睨み付ける。

「俺、海里の兄ちゃん。凌」
子犬みたいに笑う男、凌。

「お前、犬みたいだ」
凌の笑顔を見て言った。

「よく言われる」
苦笑いする凌。



「学校行くから出て行ってよ」
海里は凌の背中をぐいぐい押す。

「わかったわかった」
そう言って凌は部屋を出て行った。

「海里、あいつの事嫌いなのか?」
海里を後ろから抱き締めて言う。

「…嫌い」
小さな小さな声で応える海里。


「じゃあ、僕行って来るから。翠は部屋から出ないでね」
海里はそう言って部屋を出て行く。

「ああ、わかった」
海里が出て行くのを見送る俺。






部屋に足音が聞こえて来る。


「…あれ?」
部屋の扉を開けるのは凌。

「…何だ?」
俺はベッドに転がりながら問う。

「えーと、名前は?」
小さな声で凌は言う。

「翠」
一言だけ応える俺。


「じゃあ、翠。お前学校に行ってないの?」
凌は俺の隣に座った。

「行ってねぇよ」
少し凌を睨んだ。

「ええっ!」
心底驚いたように叫ぶ凌。

「…何だよ」
更に凌を睨み付けた。

「………、…行くか?」
凌の目は真っ直ぐに俺を見ている。

「は?」
間抜けな声で応えた。

「海里のいる学校」
ニッと笑う凌の顔。本当に犬みたいだ。


「行く」
俺は凌を見て言った。

「よし、じゃあ行くぞ」
急に立ち上がる凌。

とりあえず俺は着いて行く。





凌に着いて行った場所。それは、俺が海里を送った場所だった。

「ここだ」
凌は得意げに言う。

「………」
辺りを見回す。

どこを見ても人がいる。人、人、人。



少し待っていると、人間が沢山出てきた。

何故か皆 俺を見て通り過ぎて行く。やはりこの格好は変なのだろうか…?


「あのぉ〜」
知らない女が俺に声をかけてきた。

「…何だ?」
見下ろして返事をする。

「誰か待ってるんですかぁ?」
やけに甘ったるい女の声。

「人を待っている」
俺は女と目を合わさずに海里を探す。

「彼女さんですかぁ?」
上目遣いで女は俺を見る。

「凌、何とかしてくれ……」
隣にいた筈の凌がいなくなっていた。



「…おいお前。一宮海里を知らないか?」
女に尋ねる。

「海里くん?多分教室にいますよぉ」
女は教室とやらを指差す。

「そうか。礼を言う」
そう言って海里の元に向かった。






階段を上って行く。何だか息苦しい。呼吸が乱れる。

「―――――…翠?」
階段の上から海里の声がした。

「海、里…」
少し視界が歪む。

「翠っ!!」
目の前に海里の顔がある。

「はあ…」
壁に手を付く。


「何でここにいるの!?」
慌てたような海里。

「お前が心配になって…凌に着いて来た」
海里の頭を撫でてやる。

「兄貴…に、何か言われたの?」
海里は泣きそうな顔で聞く。

「いや、何も」
俺は口角を上げて笑顔を繕う。
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