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□漆黒の羽
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――――――。

「ん…」
目を覚ませば、カーテンの隙間から太陽が顔を覗かせる。

「…またあの夢か」
溜息をつきながら眠い目を覚まさせる。


黒い羽。
あれは、何の夢なんだ?
毎晩のように見る。



「海里〜、遅刻するよ〜!」
部屋の外から母さんの声がする。

「もう起きてるよ」
僕は小さく言った。




さっさと着替えて部屋を出る。

「海里、おはよう」
2つ上の兄、凌が話しかけてきた。

「…はよ」
素っ気なく返す。

「機嫌悪いなあ」
兄貴は僕の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

「子供扱いすんな、ばーか」
ちょっと兄貴を挑発してみる。

「はいはい」
ニコニコしながら兄貴は僕の頭から手を話す。


「じゃ、僕学校行って来る」
玄関に向かう僕。

「ご飯食べないの?」
心配げな母さんは僕に近寄る。

「お腹空いてないだけだから、大丈夫。行って来ます」
僕は逃げるように家を出た。



------

「…はあ…」
何だか物凄く眠い。


チリン..

「何の音だ?」
周りを見回す。

チリリン..チリン

「鈴の音…?」
微かな鈴の音。

「…あっちからだ!」
鈴の音のする方に走る。

行かなきゃいけない気がした。
頭の中に 直接音が響くような感覚。




チリンリン..チリンッ

次第に音が大きくなって来る。

―――辿り着いた場所。
それは神社だった。



「行かなきゃ…」
奥に行かなきゃいけない。そんな気がする。

チリ..チリン チリン..

奥に行くと、御堂があった。
大きな大仏がある。



「鈴の音が…消えた」
御堂を見渡しても、何もない。

音もしない。

「おい」
背後から声がする。


瞬間、御堂の扉が閉まった。

「え…!?」
扉まで駆け寄る。

「開かないっ!!」
押しても引いても、びくともしない。





「……んっ!?」
後ろから、急に口を塞がれる。

「……」
そして、ぎゅっと押さえ付けられた。

「ん、んむーっ!!」
僕は身動き一つ取れない。



「お前…何故ここに来た?」
何者かに耳元で囁かれる。

「鈴の音が聞こえたから…行かなきゃって…」
声が震える。

「聞こえたのか、俺の鈴の音が」
クスリと笑う何者か。

「聞こえた」
僕は小さな声で応える。




「お前、名前は?」
後ろから押さえ付けたまま、そいつは俺に尋ねる。

「い、一宮海里」

「海里…覚えておく」
そう言って、奴はいきなり僕の首筋を舐めた。

「…あっ…」
変な声が出てしまう。

「お前、美味そうな匂いがする」
後ろから抱き締められる。

「やめて…くださいっ」
逃れようとしても、身体が言うことを聞かない。




「…ごちそうさま」
僕の身体を舐めた後、そいつは耳元でまた囁いた。

「あの、君の名前は?」
火照った身体で問いかける。

「…翠」
小さく呟く奴。


「翠は何者?」

「―――――化け物」
笑って応える翠。

「…見ていい?」
後ろから僕を抱き締めている翠に問う。

「ああ」
翠は僕から少し離れる。



振り向いた。
そこには、翠がいた。

翠玉のような瞳と、黒い綺麗な髪。
そして――――――

    漆黒の羽。





「…化け物だろう?」
ニヤリと笑う翠。
「綺麗…」
じっと翠の瞳を見つめる。

「…綺麗?」
驚いたように目を見開く翠。

「うん」
翠の頬を撫でる僕。




プルルルルッ

不意に携帯電話が鳴った。

「もしもし?」
そっと電話に出る。

「おい海里、サボりか〜?」
携帯電話からは、友達の孝司の声がした。

「……あ、学校忘れてた!」
孝司の声で気付く。

「馬鹿だな、お前。とっとと来いよ」
ブチ。電話が切れた。



「僕、行かなきゃ」
翠を見る。

「………」
翠は黙って僕を見つめてくる。

「何?」
僕も翠を見つめ返す。

「急いでいるのか?」
綺麗な瞳が僕を見る。

「まあ、うん…」
苦笑いで応える僕。

「…連れて行ってやろう」
得意げに笑う翠。


「いいの!?」

「ああ」
翠は口角を上げる。

「ありがとう!」
僕は今、きっと満面の笑みだろう。

翠に学校の場所を説明した。



「少し時間を止める」
翠は僕を抱き上げて御堂を出た。

「うわっ!!」
バランスを崩して落ちそうになる。

「行くぞ」
翠は空に手を翳した。


―――――――カチリ。

何かの音。



「時間を止めた。急ぐぞ」
そう言うと翠は凄い速さで飛び立った。
あの黒い羽で。

「凄い…!!」
風が身体に当たる。


学校には数分で着いた。





「ありがとう、翠」
僕は翠に微笑みかけた。

「…ああ」
翠は僕を地面に下ろす。


「じゃあな」
そして翠は消えた。
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